君のその手を

□12章:愛の痕。
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「…“痕”つけるぞ…。」



最低限に落とされた灯りのなかで二つの影が壁にゆらりと揺れる。


一通り首筋を刺激し、重ねた身体を少し浮かせて渚に問い掛けた。






「…ん、見えないトコにしてくださいね?この前見られて言われちゃったから…。」



「は?…誰にだよ…。」







“虫除け”として、目立つ首筋に付けたいのはヤマヤマなんだが、“白衣”に“キスマーク”は逆にエロいんじゃねー!?っとハッと気付いて以来、ソコは避けていた。
渚がそんな“目”で見られるのは俺にとって不本意だし、面白くない。
…っつーので、なるべく“背中”とか“胸のトコ”辺りに付けてたっつーのに、誰に見られた?






「ん…?同じ科の2つ下のコ…。ロッカーが隣でね、着替えしてた時に“背中の”見られちゃって…。」



「何か言われたのかよ…。」



「あのね…、『藤波さんの彼氏ってどんな人なんですかー?そんなに“付ける”なんて“独占欲”強そうですね〜。』って…。」



「……。」



チッ…



別にイイじゃねぇか。


“自分の女”を“独占”して何が悪い?


“俺のモン”だと主張して何が悪い?






…だけど、コレは一方的に俺が“付けた”もので、“付けてほしい”と言われたワケではない。






「…ヤメとくか…?」



「んー…微妙…」





うっ…何かショック。

『微妙』って何だよ…。






「だって…『凄い愛されてるんですね〜』って言うんだもんー!!」


「は!?え゙!?あ゙!?ちょ待て…!!」



俺の制止する声は渚には届かなかったらしく、グワングワンと俺の肩を掴んで揺さぶる渚。





「だって“あんなに”付いてたなんて知らないしー!!」






確かに渚からは見えねぇし、俺も“付けた”とも言っていない。





“ソレ”を付けたのは“真っ最中”の時だし、渚にしても“付けられた”というのが分からないくらいに溺れてる時だろうから知らないのも無理はない。





多分、“前”のほうは隠してたんだろうが、全く意識してなかった“背中”を他人に指摘されてソコで“視認”。



よっぽど恥ずかしい思いをしたらしいっつーのが、今のこの状態を見てるだけで分かる。


分かるんだが…






「“付けたくなる”んだからしょうがねぇだろ!!」



「“付ける”とやっぱり嬉しくなるんですか…?」



「んん!?そりゃまぁ俺が付けたモンならな…。」









『俺が愛したっつー“証”が残ンだろ。』







と、ポロっと言えば、ボッと顔を赤らめて、さっき以上に揺さぶられた。



俺の両手は渚の頭の両脇に着いた状態のまま。



細いワリに握力・腕力は人並み以上ある渚の力をすっかり忘れていた俺は、首をあっちこっちにガクガクされた。






「た、頼むから!!落ち着けー!!く、首がもげちまうっ!!」


「え?あ゙、ゴメンなさいっ…!!」










ホント男っつーのは“単純”なモンで。




自分の付けたモンなら満足で、ソレを他人に付けられるようなコトがあったらと想像しただけでも虫酸が走る。



だからこそ、キツく吸って“自分の痕”を残したくなるんだ。





無数に




刻み込むように




俺のモンだってな――。








「…先生。」



「んー?どした?」











「…付けてもイイ?」



「は…?」








荒治療のマッサージ?をされて、


アレ?何か首の凝りがほぐれたんじゃね?


と首をグルグル回して具合を確かめてた時、少し間を置いた後に聞こえた渚の言葉に一瞬耳を疑ってしまった――。






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