君のその手を
□14章:ほんのちょっと、
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ふぅ… っと身体と頭の疲れを吐き出すように溜め息を吐いた。
肩凝ったー…
時計に目をやれば7時半過ぎ。
日勤者は全員業務を終了して帰宅。このナースステーションには準夜勤者しかいないハズなのだが、今日の日勤リーダーだった渚はカルテ整理の為にこの時間までいた。
グゥーっと伸びをしてから目の前に積み重なっていたカルテの山を病室順にカルテスタンドに戻していく。
「渚ちゃん、お疲れ様。もうそこら辺にして帰らないとダメよ?」
「あ、はい。漸く終わったので片付けたら上がらせてもらいます。」
声を掛けてきたのは準夜勤のナースで年配のベテランナース。渚がこの春に配属された時に指導ナースとしてついた人だった。
渚は4年間の経験はあるものの“小児科”での勤務は初めてだったし、成人とは対応が少し異なる。
配属された最初こそ戸惑いがあったものの、スタッフは皆母性溢れる人達ばかりで、特にこの指導ナースは子育て経験済みということもあり、一連の体験談を指導の中に交えながら仕事を教えられている。
元々渚は子供好きだったし、明るい部署に配属されて良かったと思っていたが、これも“叔母”の気遣いがあっての事かもしれない。
時々病棟巡回に回ってくる叔母の“総看護師長”。
だがお互いの関係は秘密。
仕事中は“上司”と“部下”に徹する。
廊下ですれ違っても会釈する程度だから勿論誰も気付かないし、総看護師長と立ち話でもしようものなら『あの子なにしでかしたの!?』的な騒ぎになってしまう。
この院内で知っているのは叔父の外科科長と叔母の総看護師長、仲の良い少数のスタッフ、そしての外科医の『長曾我部元親』のみ――。
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