君のその手を

□14章:ほんのちょっと、
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「お疲れ様です…。」


「……!!」




エレベーターに乗って来たのは1人。といっても“姿”を見たワケじゃなく、ほとんど“影”のように見たと言ったほうが正しい。




扉が開いた瞬間に挨拶を発して、邪魔にならないようにともっと隅に身体を寄せた為にレントゲン袋が視界を完全に塞いだ。



乗ってきた人は避けた瞬間に入ってきたのだが、何故か息を飲んだような気配がする。



まぁこの人もこの時間帯に“先客”がいるとは思っていなかったというコトなんだろう。


私も“乗る人なんていないだろう”って思ってたし。






――にしても何かヘンな緊張感、というか…視線を感じる。



だけど返事も返してくれなかった。


まぁ知っている人なら『おっ!?』くらいは言ってくれただろう。


でも“この人”は無言の上に痛いほどの視線を斜め後方から浴びせてくる。






ひぇぇ…何か怖いんですケド…



ますます“誰”かなんて見れなかった。



結構上のほうのお偉い先生なのかな…と俯き加減にレントゲン袋の端から見えた白衣をチラリと見た程度でまた視線を真っ直ぐに戻した。























「…いい加減気付けバカ。」

「はい…? …っうわぁぁぁ!!な、な、なんで!?」




ドサッ、バサバサ、




「…なんだそりゃ。お化けでも見たような反応しやがって。あーあ、ぶちまけちまってんし…。俺もオマエに『なんで』って言いてぇよ。こんな時間まで残業か?」




ズイっと近付きながら溜め息混じりに声を掛けてきた“その人”は“元親さん”で――



『会いたいな…』とは思ったケド、まさかこんなトコで会うとは思ってもいなかったワケで――




驚きの余り、離すまい、落とすまいとしていたレントゲン袋を盛大にぶちまけてしまいました――。












「す、すいません…。」


レントゲン袋を落としてしまったコトの他に、思いっきり“怖い人っぽい”とか“偉そうな人”だとか思ってたコトに対して思わず『すいません』って言ってた。


…謝罪の理由の中身は絶対口に出しては言えないけれど。




「あ?こんなコトくれぇ何てコトねぇよ。つーかオマエもドジすることあんだな、ハハッ。」




見事に先生の足元までいっぱいに散らばってしまったレントゲン袋を『先生のせいですよ』とは言えずに、笑われながら無言でかき集めた。


内心思ってた、『お化けを見るよりビックリした』とも言えなかったし、何より朗らかな笑みを浮かべながら笑ってくれるその“笑顔”にますます罪悪感を感じた――。












「オマエ、こんな雑用までしてんのか?こりゃ看護助手の仕事だろ?」



「んー…たまたまですよ…今日はリーダーだったし、帰るときに“コレ”を見つけちゃったからもんですから…。」



「ってもよぉ…この時間じゃ“アソコ”は暗いぜ?…多分“出るぞ”?」





先生が言う“アソコ”と言う場所は地下の“レントゲン倉庫”。


診療時間はとっくに過ぎているので全館の廊下の照明は最低限の明るさ程度に落とされている。


だけれどもこれから向かおうとしている“地下”は照明すら点いていない可能性が大きい。というかこの時間帯に行ったことがなかった。




実を言うと自分一人じゃ心細かったっていうのが本音。



まぁ病院というトコ自体“気味が悪い場所トップ10”には確実に入るだろう。


今が深夜の時間帯ではないにしろ既に“薄気味悪い”感じはする。


私は“見ない体質だから平気だ”と腹をくくっていたつもりだったが、ハッキリと『出るぞ』なんて言われたらいとも簡単に平常心なんて崩れてしまった。



かといって『大丈夫です!!』って言ってきた手前、病棟に戻るにも戻れない…










「…しょうがねぇな、着いてってやるよ。」



「え!?本当!?…でも先生当直中じゃ…」



「俺は今一段落して休憩中だから大丈夫だ。ほれ、行くぞ。」







いつの間にか(多分レントゲン袋を拾っている間に)2階は通り過ぎて(開いて閉まったのにも気付かなかった)いたらしく、二人だけを乗せたエレベーターは地下1階を告げるランプとチーンという音を鳴らした――。





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