君のその手を

□14章:ほんのちょっと、
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あ…レントゲン袋が残ってる…。




さて帰ろう、と詰所内を見渡すとレントゲン袋を保管する棚の一つ、『返却』の場所に数枚残っているのが視界に入った。



きっと助手さんが片付けるのを忘れていったんだろう。



発見してしまったからには知らんぷりを決め込むという訳にもいかない。



それに『誰かがやってくれるだろう』なんて無責任で人任せな考えを持ってはいけないと昔から祖母に言われていた。





明日は休みだし、帰るついでに外来の倉庫に寄って行けばいいっか。




、と自分の鞄を肘にぶら下げ、両腕で抱え込むようにしてよいしょとレントゲン袋数枚の束を持った。




「お疲れ様です。上がらせてもらいますね〜。」



「ええ、明日は非番だったわよね?ゆっくり休みなさいよ〜お疲れ様。…あ、“ソレ”片付けてくれるの?悪いわね、場所分かる?」



「はい、一度行った事ありますから。」



『大丈夫です』と自信満々にそう言うと指導ナースは笑顔で手を振りながら見送ってくれた。











もうこの時間帯になると低年齢の子は眠ってしまっている事が多いし、面会時間も過ぎているから病棟内は静かである。



昼間の日勤帯とは大違いだ。



今日も入院、検査、処置と忙しかったなー、とパンパンに浮腫んだ足の疲労を感じながら“職員専用”のエレベーター前に行き、両手がふさがっていた為に肘でえいっ!!っとボタンを押した。




おー、バッチリ!!



ほとんど当てずっぽな感覚で下の階へのボタンを狙ったのだが、見事に当たってランプが点灯。







小さいサイズの袋だったら小脇に持ち変えることができたけれど、今日のは揃いも揃ってCTやMRIなどの一番大きいサイズの袋ばかり。


胸の前で抱えていたせいで視界は半分だから手元さえも見えないし、無駄に動いて落としてばらまいてしまったら疲労感がますます倍増してしまうだろう。








先生だったらバッチリ見えるだろうな〜…。


小脇に抱えるのもラクそうだし…。







ふと、頭に浮かんだ好きな人。



きっと彼はまだ仕事の真っ最中。



ちゃんと夕飯食べれたかな…。



院内にいるというのは分かっているけど、先に家に帰って待っていても彼は来ない。


彼は今晩当直だ。






朝からぶっ続けで仕事しているのにそのまま明日の朝まで当直なんてコトが普通にあるというのが現実。


だからその内身体を壊してしまうんじゃないかと心配でならない。







もう少し規模の小さい病院ならば会える可能性もグンと高かったかもしれないが、何せココは大病院。建物自体の規模もスタッフの数もハンパない。



未だに“初めて見る人”“見たことあるけど名前は知らない人”が後を経たないのだ。



そんな中、患者やスタッフなどの大勢の中で偶然彼の姿を捕らえたとしてもかなり遠目だし、勿論向こうが私に気付くハズもない。



悲しいかな、バッタリ廊下で…なんて一度もない。



それでも、仕事の最中に外来や別の棟に行った時なんかはどこかしら視線がキョロキョロと無意識にさ迷ってしまう。



どんなに遠くにいても背が高い&銀髪の彼は目立つから視界に入ればすぐに分かるから。



…反対に背の低い私は周りに埋もれやすいから『オマエ小っせぇから探すのが大変だー』と言われたコトがある。それは院内に限らずプライベートでもらしいけど…――。





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