君のその手を
□10章:確固たる存在に。
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「先生、もう少しで朝御飯できますからコーヒーでも飲んで待っててください。あ、そこに新聞も置いときましたから。」
「んー。サンキュー。」
シャワーを浴び終えて出てきた俺に、キッチンのカウンターの奥から声を掛けてきた渚。
もう室内には美味そうなニオイが立ち込めていて、キッチンのカウンターのトコに置いてあるコーヒーメーカーから2つのマグカップに抽出したてのコーヒーを注いでいた。
朝の一服に、と俺が煙草に火を点けたところで、コトっとコーヒーが入ったマグがソファの前のテーブルに置かれる。
ニコリと笑ってまたキッチンに戻っていった。
とりあえず今は何もする事がないと踏み、コーヒーを一口飲み、俺は目の前の新聞をバサッと広げて目を通し始めた。
あー…美味い…。
静かで穏やかな時間が過ぎていく――。
そして全部の面を読み終わるあたりに、
「先生、出来ましたよー。食べましょー。」
と声が掛かった。
「あぁ、スッゲー腹減ったー。」
なんて“温かい”んだろう――。
この“時間”も
この“空間”も
そして目の前の彼女の笑顔も――。
ホント“依存症”になりそうだ。
今までの自分の“生活”がいかに寂しく簡素なモノだったのかを思い知る。
“昨日の今日”なのに、こんなにもスッと馴染めるモンなのか、渚だからこそなのか。
茶碗の中の御飯が無くなって、俺が『おかわり』と言う前に『はい』と微笑みながら渚の両手が差し出される。
渚は自分のコトには若干ドコロじゃないくらい疎いワリに、周りの観察力・洞察力は鋭い。
一種の“職業病”なのかもしれないが、根本的な部分をしっかり持っていなければ、こういう気遣いを“自然”に“当たり前”のように行動には移せないだろう。
そうして朝飯を存分に堪能しながらも、チラリと視界に入る可愛いハンカチに包まれた大小2つの“物体”が気になってしょうがなかった。
「あ、コレ先生のお弁当です。」
流石俺の視線を見逃してはいなかった渚。
「は!?俺の…?」
「あ…要りませんでした…?私もお弁当だから先生の分もついでに作っちゃったんですけど…。」
「イヤイヤイヤイヤ!!要る!!食うに決まってる!!」
“俺用”にと食卓のテーブルの端に置かれていたと思われる“大きいほう”の弁当の包みを引っ込めようとしていた渚の手が触れる前に、慌てて自分の手元に引き寄せた――。
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