君のその手を
□8章:“お仕置き”か“ご褒美”か。
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車のキーと一緒にくっついていた家の鍵。
繋いだ手を離さぬまま、もう片方の手で器用にドアに差し込み、鍵を開けた。
「入れよ。」
「ぉぉ、お邪魔します…」
初めて入る先生の家――
部屋が広〜い…。
テレビ大っき〜い…。
そして本が多〜い…。
医学書が大半なのはもちろんだが、車、バイクの雑誌の他に『釣りの極意』なる本やカタログ、『カラクリ装置の大解剖』なんて意味の分からない本まであり、多趣味であるのが垣間見えるようだ。
「ソコでちぃと待ってろよ。着替えてくっから。」
と、本棚にくぎ付けだった私は肩を押され、ソファに座らされた。
テーブルには灰皿と数冊の医学書が重ねて置いてある。
グルリと部屋を見渡すが、やはり男の人の部屋だなぁと思う。
可愛らしいモノは一つもないし、色的にもモノトーンを基調にした家具ばかり。でもカーテンの色だけは綺麗な淡いパープルのスミレ色だった。
この部屋唯一の明るい色。
だからこそその色に目を惹かれた。
「どうしたー?外眺めて。何か珍しいモンでもあったか?」
スーツからラフな格好に着替えて出てきた先生から声を掛けられた。
「ううん。外じゃなくてあのカーテンの色が綺麗だなって見てたんです。」
「ああアレか。俺も何故かあの色が気に入って買っちまったんだ。」
「私もあの色は好きですよ。春みたいな色ですね。」
そう言うと先生は『だろ?』っと穏やかに笑っていて
、あ…なんか…先生みたいな色だな――、って思った。
「…さて着替えは持ったし、次は買い物だったな……って…」
俺がバタバタと部屋を行き来して準備していれば、渚のヤツは本棚の上に飾っていたガンプラやらバイクやらのプラモデルのコレクションを見つけてしまったらしく、いつの間に持ってきたのかダイニングの椅子に上がって、アクリルケースにへばり付くように眺めていた。
「…そんなに見ててぇならココに泊まってってもイイんだぜ?」
「え…?あ…、結構精巧に作られてるなぁって思ってつい…。」
俺の言葉に焦った様子の渚はトンっと椅子から飛び降りて、ガタガタと元の位置に戻す。
数時間前とは別人のような身軽さである。
それになんでそんなに焦んだよ。
「…まぁ今日は渚ン家って決めたからいいけど…後でまた来いよ。俺ン家にも馴れてもらわねぇと困るしな。」
「…そ、そうですね…。」
「ホレ、時間が勿体ねぇからさっさと買い物行ってしまおうぜ。」
そう言って着替え三日分をしっかり持って家を出た。
その“荷物”を見て少しギョッとしていた渚は見ないフリ――。
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