君のその手を

□7章:その瞳とその唇に。
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「先生…ちょっといいですか?」

「ンあ?どした?」


背後からの声に、身体はそのままに頭だけで振り返ると、まだ着物姿の渚。


「あの……」


上半身だけをドアの隙間から覗かせて言葉を濁していた。

んでもってあんなにブーブー文句ばかり言っていた着物をまだ着てる。


「…なんだ?脱げねぇのか?」

「スイマセン…帯紐の結び目がキツクてほどけなくって…。」

「……ほらっ、コッチ来い。何分格闘してんだよ、さっさと呼べばいいモンを…。」


チョイチョイと手招きして、俺の前に渚を立たせた。

ソファーに腰掛けたままの姿勢で、丁度帯の部分が目線ピッタリ。



「…これだな? …こりゃキツいな…。」

渚が『ほどけない』と言ったのが頷ける程、帯紐はギッチリと固く結ばれていたが、ソコは男の力で…、


「…ほらよ。外れたぜ。」

「あ〜、良かった…ありがとうございました…。」


フゥっと溜め息をついた渚は安堵の表情を浮かべる。


「オマエ…着付けされた時、隙あらば逃げようとしてただろ。」

「な…何でそれを…!?」

「当たりだろ!?着付けるほうも意地になんなきゃこんなに締められるコトなかったんじゃねぇかなって思っただけだ。 …ほらっ、後ろ向け。」

「へ…?」




『どうせだから帯も外してやる』

と渚の身体を前後にグルンとひっくり返した途端、慌てて逃げようとした渚。


…が俺がソレを逃がすワケがない。

もがく渚の腰を片手でガッチリ掴み、もう片方の手でシュル、バサッと後ろで結ばれてた帯をほどく。


『ちょ…もうイイですってー!!』

と切羽詰まった声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。

というか聞こえないフリ。

だって無性に楽しいから。

帯さえ外してしまえばコッチのモンだ。

まぁまだ腰バンド?みたいなのや、色んな紐やらがあるが…どうにでもなるだろ。


「…渚、コッチ向け。」

次の紐は前に結び目がある。

「……向けません…。だってまだ脱がすつもりでしょ…?」

「…じゃあ自分で脱ぐかぁ?勿論ココでな。」

「……。」


元々、自分一人で脱ぐつもりだった渚。

だけど、俺に助けを求めたばっかりに捕まった。

冗談で言ったつもりなのだが、ソレを本気にした渚は無言になった――。

それを見てクックッと笑いが込み上げてくる。


おもしれぇ――
耳が真っ赤だ――

こりゃ癖になんなぁ…。



「渚、コッチ向けって。」

「もう!!イヤですってば!!」

「お!?俺に歯向かうとはイイ度胸してんな。…ってヨッと。」

「ぅわ!!」



軽い&小さいって扱いやすいよな。

グイッと引っ張ると同時に身体を捻れば、難なく自分の元へ引き寄せられる。

案の定、覗き込んだ渚の顔は茹で蛸のように真っ赤で。



「オマエってホント可愛いよな…。」

「そ、そんなコトないですから!!」


ガッチリ俺に身体を拘束されてるもんだから、唯一自由だった両手で『見ないでー!!』と叫びながら顔を覆った。


だからソレも可愛いんだっつーの…。

あぁ…ヤベぇな…。

グラグラしてきた――



「…渚、 …キスしたい。手ぇ退けろ。」

「……。」


何だ…その指と指の間からの覗き見は…。

半端だなぁオイ…。


でもソノ顔は隠しきれてねぇって知ってるか、渚――?







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