君のその手を

□5章:重ねた手から伝わりますか?
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「それにしても元親さん、こちらのとても可愛らしいお嬢様のお名前は何て仰るのですか?」


部屋に通された後、お茶を出しながら喜多さんが俺に訊ねた。


「ぉぉぉ、お嬢様!?」


思いっきり吃ってんなよ。

『お嬢様』と言われ、バツが悪そうに俯いてしまった渚。

そんなに謙遜するコトねーのに。



「喜多さん、コイツは渚っつーんだ。」

「そうですか。渚さん、私、当料亭の女将をしております喜多と申します。以後お見知り置きを。」


丁寧に喜多さんに頭を下げられた渚は


「こここ、こちらこそっよろしくお願いします!!」


こちらもまた吃りながら深々と頭を下げた。



「渚さん、あまり緊張なさらずに…」

「は…はいぃぃ!!」



こりゃダメだ…。

背中に物差しでも入ってんじゃねーかっつーぐらいビシッと背筋を伸ばして固まった渚。

コレには流石の喜多さんも『あらあら…』と苦笑いを溢していた。



「渚…いつもの調子でいいんだぞ?俺もオマエがそんなだと調子狂っちまう。」

「いつもの調子…ですか?」

「言っただろ?ココには俺とオマエしか居ねぇし、何も固くなるこたぁねぇ。普段通りで構わねぇから。」

「はい…。じゃあ少し足を崩してもイイですか…?」


『ホントにいいの?』と言いたげな顔で俺を見た渚。


「あぁ、構わねぇから崩せ崩せ。」


あ、ちっちゃくなった。

『ふぅ』っと息をつきながら足を少し崩した渚は、俺が渚を見る目線が正座をした状態から少し低くなる。

それをジーっと見ていた俺の視線に気付いた渚は、フフッと笑って見せ、漸くいつもの笑顔が戻った。



「御二人は仲がよろしいのですね。元親さんがココに連れてこられたのも納得ですわ。」

「あー…、なんつーか…ココならゆっくり食えるし、なんてったって目立つし…」


『なぁ?』と渚に同意を求めるように見ると、うんうんと首を縦に頷く。


「とても素敵なお嬢様を連れていらしたので、ビックリしましたわ。お着物もとってもお似合いですし。」

ま「ぇえ…!?私そんな…何か騙してるみたいで、申し訳ないんですけど…」

「ハハッ、確かに“普段”の渚の格好じゃねぇもんなぁ。」

「あら、元親さん。女性がどんなに美しく着飾ったとしても、その方の本質までは隠しきれません。でも渚さんは外見も内面も素敵な方だと思いますよ。所作云々ではなく、“人”として。」

「お!?喜多さん流石見抜いてるねぇ。」

「ダテに長年料亭の女将はしておりませんわよ。では、お料理をお持ちしますので今暫くお待ちくださいね。」


そういって喜多さんは一旦退室。

一方、喜多さんに褒めちぎられた渚は顔を赤くしてまた固まっていた――。


あの“喜多さん”に褒められるなんて、俺もちょっと意外だった。

政宗でさえ、『小十郎より頭が上がらない』と言う喜多さん。

若ぇ頃、ココで飲んだくれて政宗とバカ騒ぎしてしまった時のあの喜多さんのお説教に肝が冷えた思い出がフッと頭を過る。



あん時はおっかなかったなぁ…

片倉さんと同レベル…いやソレ以上だった…。


後にその二人が姉弟であると聞いた時は、疑うまでもなく即座に納得したのだが。



でもあの喜多さんも言うんだから俺の“目”は間違っちゃいなかったってコトだよな――。





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