君のその手を
□3章:響くのは誰の声?
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『渚を…
頼むよ…』
次の日の早朝、頭に響いた声で目を開けた。
何ださっきの声…?
テレビかラジオからの音か?と思ったが、意識が覚醒してくると、そうではないということに気付く。
物音など一切しない静まり返った室内――。
ドコだココは…?
見慣れない天井。
見慣れないベッドカバー。
見慣れない家具。
グルリと見渡すが、視界に入ったモノ全て見たことがない。
枕元には未開封のミネラルウォーターのペットボトルが1本。
飛び付くようにそのペットボトルを飲み干して、昨夜のコトを思い出そうと未だにボーッとする頭をフル回転させるが…
頭痛ぇ…。
『先生ー大丈夫ですかー?ちゃんと私に掴まっててくださいね。』
『タクシー乗りますよー。』
『気持ち悪くないですか?』
あぁ…何となく頭の記憶の片隅に渚の声と背中を擦る手の感触だけは覚えているような気がする…。
あと…仄かに感じた甘い匂い…。
その時に感じた匂いがこの部屋、この布団の匂いと少しカブる気がする…。
もしかして…――
確認すべく、起き上がって、寝ていた部屋の扉を静かに開けた。
カチャ…
………。
扉を開けた先の景色も、やはり見たことがない部屋――。
キチンと片付けられているその部屋はシンプルなモノで、ソファ、テーブル、テレビ、ノートパソコンといったモノしか置いてなかった。
そのリビングに置かれたソファから毛布の端っこと足のつま先がピョコンと見えているが俺が立っている方は背面側で、ソコに居るのが誰かまでは確認出来ない。
足音を立てないような足取りでゆっくりとソファに近付き、上から覗き込んだ――。
そこには――
毛布を頭からスッポリ被るような格好で丸くなって寝ていた渚がいた――。
やっぱり…――
俺…情けねぇな…
何やってんだよ…
あまり覚えていないが、きっと渚は酔い潰れて寝てしまった俺を放っておけず、ココまで連れてきたのだと確信した。
しかも俺をベッドに寝かせて、自分はソファ。
お陰様と言うべきか、かなり寝心地が良かった。
普段眠りの浅い俺が、久しぶりにグッスリ寝たという気分がしてた。
…だが、俺を抱えてココまで帰ってきたのだ。
渚にとってはかなりの重労働だったハズ。
そう思った瞬間、罪悪感が込み上げてきた。
ハァ…俺、ホント何やってんだよ…!!
浅はかな思いつきから起こした自分の行動が、結局は迷惑をかけてしまう結果になってしまった。
アイツらと同じじゃねぇか…。
スースーと寝息をたてて眠る彼女の寝顔を前に申し訳ない気持ちで一杯になった――。
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