君のその手を

□1章:気になる持ち主。
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…その日、仕事が片付いた俺は真っ直ぐ家に帰らずに、『ちょっと流してから帰ろうか』と思いながら駐輪場へ向かった。




あ…居ねぇし…。



朝、既に停めてあったワインレッドのソイツはもう居なく、空間だけが残っていた。




今日も擦れ違ったな…。


あながち、猿飛が言ってたコトはハズレてねぇなぁ…。





いつしかソイツの主人を『見てみたい』ではなく、『会ってみたい』と願ってる自分に気付く――。





らしくねぇな。


何を期待してんだか。





そんな自分を自嘲気味に笑いながら相棒のエンジンをかけ、海に向かって走り出した。



闇を照らす街灯の列を駆け抜け、建物や家も疎らになってくると次第に車通りも減ってくる。


アスファルトを照らすのは一筋の光。


聞こえるのはメット越しに受ける風の音と低音に響くマフラー音だけ。





アクセルを開けて、向かうはお気に入りの海が見える展望台――。












あ?…先客か…


夜は滅多に人なんて来るトコじゃねぇのによ…





しょうがねぇ…帰るか…







俺が気が向いた時に立ち寄る展望台がある駐車場――


視線の先の暗闇の中に、小さな白熱灯の明かりにボンヤリと照らされた1台のバイクを確認した。

そしてその前には人影が。



明かりの真下ではなかった為、影のようにしか見えないし色もハッキリ分からない。

よくよく見たかったがライトで照らすのは悪い気がしたし、照らされるほうも気分がイイもんではないだろう。



向こうも俺のバイク音に気付いた様子で振り返ったが、その人物はやはりよく見えなかった。




…だが身体つきからして女だというのは分かった。


待ち合わせか何かか…邪魔しちゃ悪ぃな…と思いながら大して気にもせず、すぐさまグルりと廻って引き返そうとハンドルと重心を傾けた――





…が、転回する時、一瞬俺のバイクのライトがソイツを照らした。




!!!

あれは…!!!





黒っぽいバイクだと思っていたソレは俺のライトに照らされて本当の色を俺の目に映した。




アレは…


いつも話しかけてたワインレッドのバイクじゃねぇのか――!?


こんなトコに居やがった――!!








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