君のその手を

□1章:気になる持ち主。
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「…なぁ猿飛、ココの職員でさ、バイク乗ってる女って知ってるか?」

「へっ?『バイク乗ってる女?』」


一向に正体不明のままの存在に、ここは院内イチの情報通の薬剤師・猿飛に聞けば…と思い、たまたま一緒になった院内にある食堂で昼飯食いながら尋ねてみた。


「バイクねぇ…ってかどんなバイク?」

「ああ、400のワインレッドなんだけどよ。」

「へぇ珍しいね、女の子ならスクーターかと思ってた。ってそのバイクに乗ってるのが女だって何で判るワケ?」

「まぁ…全体のイジり方とかワンポイントが女っぽい。あとはシートがアンコ抜きされてっからな。」



アンコってのは分かりやすく言うと綿のコト。

よく背が低いっつーかバイクに跨がった時に足着きが悪い場合にそのクッション綿を抜いてシート位置を低く調整することだ。

元々クルーザータイプの車種は低いハズなのだが、それを更にアンコ抜きしてあるってコトは女以外は考えられない気がする。それにかなり小さいヤツだと。



『へぇ…』と頷きながら何やら思案し始めた猿飛。

だが答えは出なかった。





「やっぱオマエも知らねっか…。」

「う〜ん。ちょっと時間くれる?今日さ、合コンあるから色々聞いてみるよ。多分色んな部署から集まるから情報集まるかもよ?…っつーか珍しいよね〜チカ先生が女に興味を持つなんて〜。」

「はぁっ!?俺が興味があんのはバイクの持ち主なだけであって、女なワケじゃねぇ!!」

「そう?」



ニシシと妖しく笑う猿飛に思わず溜め息を吐いてしまう。




「あ、今日の合コン、チカ先生もどう!?先生人気あるから『呼んでほしい〜』っていっつも言われるんだけど。」



またかよ。



「俺は合コンは嫌いだから絶対行かねぇって言ってんだろ。」

「はぁ…先生もいっつもソレなんだから…。」



合コンなんて職業を聞いた途端、目の色を変えて擦り寄ってくる女ばかり。

院内スタッフとの合コンなら尚更だ。

ちょっと素振りを見せれば絡み付いてきて、後で色んな噂が飛び交うハメになる。


医者になって最初のうちは『なんて得な職業なんだ!!』と思ったが、興味があるのは所詮ステータスと金の女ばかりで。


それでも外見に惹かれて、綺麗なヤツや可愛いヤツとは付き合ったが、『アレ欲しい』『コレ欲しい』と依存されると次第にウザったくなってくる。


まぁ色々と尽くしてくれたヤツもいたが、結局は何かしらで見返りを求めてきた。



付き合いだして最初のうちは我が儘も可愛いモンだと機嫌をとったりしてたが、休日くらいはゆっくり過ごしたい俺に『買い物行きたい』『どっか出掛けたい』としょっちゅう言われると、正直構うのも構われるのもだんだん面倒になり、結果、熱も冷める。

結局、どれもこれもあまり長続きせずに別れてきた。

職業で男を選ぶ女なんてもうウンザリだった。






そんな思い出を残しながらそれなりに恋愛経験を積んだ俺は、20代後半を過ぎた頃には慎重に中身を見るようになっていた。


…が、中々俺の理想に合ったヤツなんて現れてくれないのだが――。








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