君のその手を
□1章:気になる持ち主。
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いつからか病院の駐輪場に停められている一台のバイク。
特に駐輪場内を分けてある訳ではなかったが、自転車は自転車、スクーターはスクーターという風に暗黙の了解で置かれている中で、中型・大型のバイクは珍しいっていうか一際存在感があった。
その国産メーカーのクルーザータイプの400ccは自然と目を惹かれるワインレッドの車体カラーで、各々に付いてるステンレスパーツがピカピカと光っている。
…ふーん。結構イジってんじゃねぇか。
相当好きなヤツだな…。
自分のバイクをそのバイクの横に停めて食い入るように見れば、ハンドル、メーター、シート、足廻り、マフラー…
と感心してしまう程のフルカスタム。
へぇ…コイツのオーナーは女か…。
今時珍しいヤツもいるもんだ。
…と、そう思ったのはタンクに描かれたピンストライプの模様。
車名エンブレムの横に小さな花模様が描かれてあった。
男がオーナーなら絶対コレはない。
どんな女が乗っているのか
コイツを眺めているウチに小さな興味が湧いた――
それが始まりで――。
アレの持ち主がどんな奴か見てみたい――
…と、休憩の時など、ちょうど駐輪場を見下ろせる医局の窓の片隅から眺めていた。
…だがどうもタイミングが悪いらしい。
気になりだしてから、かれこれ1週間は経つだろうか。
朝出勤した時はもう停めてあるし、帰る時にはもう居なかったりまだあったりと未だに持ち主が分からない。
影すら見えない。
俺も暇じゃないから待ち伏せまでする気は無いのだが、そう思いつつもコーヒー片手に煙草に火を点ければ、自然と窓際に足が向いてしまってた。
一体何処の部署なんだろう?
同じ医師なら科が違ってもどっかで顔は会わせてるハズだし、知ってる限りは殆どが高級車通勤。
バイク通勤を主にしてる医師は俺ぐらいだから情報が耳に入ってもおかしくないハズなのに、…といっても俺が出勤するのはいつもギリギリな為に聞こうにも周りには誰も居ないのだが。
それにスタッフの業種だってかなり多種多様。
医師、薬剤師、看護師、検査技師、医療事務、栄養士、調理師、警備…と、もっとあるが、直接関わりがない限り名前すら知らないスタッフがかなりいるのは確か。
だから駐輪場でバッタリと会わない限り、その中で持ち主を捜すのは至難の技に思えた。
気にはなるものの、そんな感じで傍観しているだけだったある日の勤務終了後、帰ろうとした時には気になるソイツはまだ俺のバイクの横に並べてあった。
今朝もあって今もあるってコトは残業してるのか…置いて帰ったのか…。
…分からん。
けど、でもなんとなくコイツを置いて帰ったってのはあり得ないような気がした。
「なぁ…オマエの主人はどんな奴だ…?」
何故なら、いつ見てもピカピカに磨かれたワインレッドのソイツは他人の俺に伝わってくるくらい大事に扱われてるって分かってたから――。
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