短編集

□drrr!
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「…バカか」

「バカじゃありません」

「ドジなんだな」

「……」



ハァと呆れたようにため息を吐く金髪サングラスのお兄さんは、この町ではちょっとした有名人の平和島静雄という男。お兄さんのいい噂なんか聞いたことがない、むしろよろしくない噂ばかりである。

そんなバイオレンスなお兄さんと、なんの特質もない女子高生の私が何故無意味な問答を繰り返しているのか。
…そんなもの、私が一番知りたいのである。



「もう本当なんなんですか、お兄さん」

「静雄だ」

「…おに「静雄」……静雄さん」



満足そうにお兄…静雄さんは口元を緩めれば、で、と先程の問答の続きを紡ぐ。



「懲りないヤツだな、お前も」

「…静雄さんには言われたくありませんよね」

「言うじゃねえか、女子高生」



もう本当、なんなんだこの人。
あからさまにため息を吐いてやってから、ゆっくりと立ち上がる。そうすると、静雄さんは少し慌てた様子を見せた。静雄さんが慌てた理由は恐らく、今現在進行形で私の右膝に包帯が巻かれているからだろう。…わあ、静雄さんってば過保護。



「大丈夫なのか、その足」

「痛くないわけないじゃないですか」

「手前、家まで何分かかる」

「え……、バス代忘れたから歩きで…普段なら此処から三十分ですってうわっ!」

「おー、軽い軽い」



私が気紛れでちゃんとした返答をしていれば、言葉の途中でその、所謂お姫様抱っこというのをされてしまった。
座っていた場所に置いといた荷物は、いつの間にか静雄さんの肩にかかっている。

ていうか、ていうかちょっと待て、私体重あるのにとかいう前に(てか軽いって言ったし此処は気にしないけど)、この体制は物凄く、物凄く恥ずかしいぞ…!



「し、静雄さん、おろして!」

「あ?もしかして、膝が痛むのか?悪ィ、暫くの辛抱だ。もしアレなら膝伸ばしとけ」

「ち、違います、あの、この抱かれ方はちょっと…!」

「馬鹿野郎、怪我した時くらい頼っていいんだよ。無理すんな」



真剣な表情で言った静雄さんに、もうおろしてとは言えなくなってしまった。
その代わりに出た"私は野郎じゃない"という言葉に、素直じゃねぇなぁ、と静雄さんは笑った。




甘え下手
(真剣な瞳にキュンとなんてしてない、絶対。)




2012.09.26 

 

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