短編集
□復活
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※死ネタ
いろとりどりのネオンが輝く中、似つかわしくない上品な佇まいのマンションがひとつ。その一室に、僕と彼女は居た。殺風景な白の部屋、黒と赤はあからさまに浮いている。
僕の持つ黒は重く、彼女を追い詰めているはずなのに。彼女の赤は歪まない。
真っ赤な紅をのせた唇が、ゆっくりと動く。
「…そう、期限切れなのね」
歪むことなく、ただ寂しげに。
向けた銃口は彼女をとらえているのにも関わらず、恐怖の色は見えなかった。
「…期限切れ?どういう意味でしょう」
「最近、全然会いに来てくれなかったし。今日だって、今ようやく、目を合わせてくれた。」
真っ直ぐな視線に感じたのは、強い想い。僕の心の奥で何かが悲鳴をあげた、気がした。
そんなのは一時の迷いだと、悲鳴を無視して自嘲気味に笑ってみせる。
「クフフ、気付かれていましたか。貴女に興味がなくなってしまったこと」
「むくろ」
「気安く呼ばないでいただけますか」
僕は彼女の、甘ったるい呼び方が嫌いだった。
初めて会った時から馴れ馴れしく、どこか愛おしそうに呼ぶ声が。
彼女に近付いたのは、彼女が僕の【標的】であったから。彼女を消すことが、僕に課せられた任務。
なのに彼女の甘い声は、それが揺らいでしまう気がしていた。
「ねえ、むくろ」
「だから気安く―」
「私、知ってたの」
「―…は?」
「私はボンゴレの機密を知ってしまった、ミルフィオーレの人間で。骸はボンゴレの幹部で。…骸が近付いてきたのは、私を始末するためだったってこと。」
一瞬、彼女の言葉が理解出来なかった。
目の前にいる女は、全てを知っていた。自身の厄介な立場も、僕の計画も。
それでいて、彼女は僕と一緒にいたのだ。僕にありったけの愛情を、捧げていた。
なんて、
「…馬鹿な女だ」
愛おしい女性なのだろう。
「ハッキリ言われると…、結構堪えるね。」
「馬鹿だ。僕がボンゴレの人間と知っていながら、始末しておかないなんて。」
「無理」
即答して、ゆっくり僕に近付く。
逸らせない、視線。
正面に立ったかと思えば、銃を持つ手を覆うように僕の手を握った。
「愛してるから、貴方を。」
「…ハッ、笑わせる。君を騙していた男であり、君を殺そうとしているのに現在形ですか?」
「もちろん。今この瞬間でさえ、この気持ちは揺らがない。」
力強い愛の言葉。
想いのこめられた、瞳。
引き込まれないよう、彼女の手を振り払った。
「僕は最初から、君を愛してなどいませんでしたよ」
「そ?それでも私は、」
せめて最期の瞬間だけでも
僕を憎んでください
鈍い独特の音が室内に響き渡る。
真っ白な部屋も、彼女の赤も、何故だか歪んでみえた。
2012.05.22
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