短編集

□復活
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「別れよう」



ボスの独断で、ファミリー全体が休みになった今日。俺は可愛らしい彼女に、別れ話を切り出す。

残暑厳しい夏は過ぎ、肌寒い季節がやってきた。驚いた表情のまま固まっている彼女は、今の時期にピッタリな暖かいものを着ている。全体的にふんわりとした印象を持たせる、彼女に似合う服装だ。半年前にプレゼントしたネックレスをつけてくれてる辺り、律儀というか…俺は愛されていると思う。



「な…、え?何を言ってるの」

「お前と別れたい」

「……え?なんで?他に好きな子でも出来た?」

「違う」

「私に興味がなくなったの?」

「それも違う」



最初の方こそ必死に驚きを隠し笑顔を保とうとしていた彼女だが、再度はっきり述べればせきを切ったように涙を流す。ついでに問いも溢れた。

俺の所属は暗殺部隊の隊員、女要素なんてまるでない。下っ端の頃は事務を担当していて女もそれなりに居たが、目の前にいる彼女しか眼中に無かった。故に、彼女以外に惚れることもないと言いきれる。
彼女に愛想をつかしたわけでもなければ、彼女に興味がなくなったわけでもない。自分の気持ちに嘘をつかないで言うと、正直彼女の事は好きだ。愛している。彼女以上の女、他には居ないだろう。

しかし、手放さなければならない。いや違う。だからこそ、手放さなければならない。



「なら…ならなんで!」

「俺、出世したんだ」

「、へ?」



俺の言葉に一瞬できょとんとした表情になる。予想していた反応と全く同じで、思わず笑ってしまう。



「意味が分からないよ」

「俺さ、雷撃隊に選抜された。しかも幹部クラスで、『03』のコードネームももらえたんだ。」

「……」

「スピード出世だよね。嘘かと思ったけど、レヴィさ――隊長にお会いした時、レヴィ隊長直々にスカウトされたよ」



彼女は複雑そうな表情をしたまま、俺をただ見つめた。

本当に嘘みたいな話。暗殺部隊の下っ端の俺が、ファミリーの幹部直属の部隊に三番手で入れてもらえるとは。暇な時間が出来てしまい、たまたま訓練所で鍛練していたら、たまたま隊長が通りかかって。俺の素質に惚れた、と言ってくれた。

直属の部隊に入隊出来る事は、凄く嬉しく、喜ばしいこと。…雷撃隊でなければ。

レヴィ隊長の方針は、『ボスの邪魔になる者は女、子供であっても葬る』だ。ボス(と隊長)を一番に考え行動しなければ、すぐにでも首を斬られる。
そして俺は、三番手になってほしい、とスカウトをされた。01、02、03のコードネームの隊員は、常に隊長の近くに待機していなければならない。つまり、休み返上というわけだ。

そんな状態で彼女を縛り付けておきたくはないし、彼女が俺の弱みになってほしくない。これはただの、俺のエゴ。



「そっか…よ、良かったね。配属はいつなの?」

「明日なんだ」

「明日、か」



現実味を持たせるように、小さく復唱する。
少し俯きがちになったから顔を覗き込もうとすると、すぐに顔を上げて、言う。



「…大好きだったよ、愛してた。」



彼女の最後に見せた笑みは、とても綺麗だった。




お前を一番愛してた




次の日。
雷撃隊に顔を出す前に、懐かしい事務室に寄った。俺が仕事をしていた頃のデスクには見たことのない資料が置かれていて、なんだか寂しくなった。ついでに奥の彼女のデスクを最後に見ておこうと探したが、彼女のデスクはなくなっていた。

ファミリーの事務担当名簿にも、既に名前は消えていた。

 



2010.10.28



 

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