話
□ふたりの音色、その色は
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昼下がりの山下公園。
横切る人なぞ、まるで興味はなさそうに。
ぽつりと日陰のベンチに腰掛ける、彼、冥加玲士。
彼が目を通しているのは、楽譜などではなく、生憎小難しい学園の予算案、諸々。
眉間に皺を寄せ、資料を見るその様は、確かに一見、見る者を一切近寄らせない、そんな威圧的なオーラを放ってはいるが……
そんな彼に、近付く影が、ひとつ。
「…………あの、」
そのほそい声に。空気がぶわりと、一変したようだった。
顔を上げた彼の目が、一直に捉えたのは。
「…お邪魔しても、いいですか?」
小さな肩を竦め、彼を上目で見やる少女、小日向――かなで。
その、すべてを忘れる美しさに。
ずくりと。
魂までもが疼いたのは。一瞬。
次に瞬いた彼が見たのは、いつものほわほわとしたその顔が、心元なさげに傾げられた、その様だった。
(…………、)
さすがに、それに気付かない、冥加ではない。
それは、彼が今まで彼女にしてきた仕打ちのせいだと、いわれてしまえば、確かにそう認める他ないのだが。
(……つくづく、愚かな女だ)
彼は内心、深い溜め息をついた。