話
□天使のいる町
1ページ/3ページ
とある日の、とある夕方。
その日、かなでと響也のふたりは、かの元町通りにいた。
「――っはは、おまえそれ絶対におかしいって!」
「――うー…、そんなことないよー!だって響也もあの時はー……」
賑わう商店街。
じゃれあうふたり。
これはいつものことであるのだが。
唇を尖らせて、響也を睨み付けたかなで。
もはや前は見て居ない。
そしてかねがね、あの冥加玲士から、『落ち着きがない』とためいきを吐かれる。そんなかなでであるが故。
「あ、おま!ちゃんと前を――」
かなでが、響也のあせった声を受け、顔だけ前を向いたときにはもう遅く。
「え――…、ぎゃっ!」
どん
と。少しの衝撃と共に、かなでは後ろ向きのまま、『何か』に衝突した。
(う。いた……)
咄嗟に目を瞑ったかなで。
視界を閉ざした彼女が身体で感じたのは、ヴァイオリンを背負っていたが故に受けた僅かな痛みと、柔らかな……、
(……?柔らか……?)
「!!」
かなではあわてて振り返る。
ぶつかったことを謝るため。
精一杯、上を見上げる。
けれど、そこにいたのは――
(うわぁ……!)
かなでが思わず息をのんでしまったほどに美しい、男のひとだった。