Theater WEST
□Movie3
1ページ/4ページ
【夢を叶える小料理屋】
カラカラ・・・
智洋「いらっしゃいませ」
「もう閉店かな?」
智洋「大丈夫ですよ。あ、カウンターどうぞ」
1年前、俺は修行してた割烹料理屋から独立し、念願の小料理屋を開いた。
智洋「いつものでいいですか?」
「せやな、頼むわ」
智洋「かしこまりました。お連れ様はなんにしましょう?」
「えっと・・・私も同じので」
智洋「かしこまりました」
「この子な、行きつけの店が欲しいーって言うてたから、ほんなら神ちゃんの店しかないやろーって連れてきた」
智洋「ホンマですか!ありがとうございます」
常連さんが連れてきたのは、俺と同世代ぐらいの女の子やった。
♪〜♪〜
「あ、悪い。会社からや。ちょっと席外すわ」
仮面女優「はい」
店に残された俺と彼女。
智洋「味、大丈夫ですか?」
仮面女優「はい、すっごく美味しいです」
智洋「良かったです」
仮面女優「あの・・・」
智洋「はい?」
仮面女優「また来てもいいですか?」
智洋「もちろんです!いつでもどうぞ」
仮面女優「へへっ///ありがとうございます」
その日以来、彼女は店によく来てくれるようになった。
カラカラ・・・
智洋「すみません、もう閉店・・・」
そんなある日の夜遅く、板場を片付けてた時に店に来たのは仮面女優ちゃんやった。
仮面女優「ごめんなさい、お店閉まるならまた・・・」
智洋「あ、ええよ」
仮面女優「え・・・?」
智洋「常連さんなら話は別や」
仮面女優「・・・ありがとう」
智洋「大したもん出されへんけど・・・ええ?」
仮面女優「うん」
いつもの席に座ったのに、いつもの仮面女優ちゃんじゃなかった。
智洋「なんかあった?」
仮面女優「え?」
智洋「いつもと違うから」
仮面女優「へへっ・・・神ちゃんには分かっちゃうんやね・・・」
智洋「俺じゃなくても分かるわ。そんな落ち込んでたら」
仮面女優「そか・・・」
そんなに無理して笑わんでもええのに・・・
智洋「はい、だし巻き」
仮面女優「ありがとう」
智洋「これ、お気に入りやろ?」
仮面女優「うんっ」
俺の自慢のだし巻きは、仮面女優ちゃんのお気に入りでもあった。
仮面女優「・・・美味しぃ」
智洋「良かった」
やっと素直な笑顔になった。
仮面女優「神ちゃんはさ、なんで板前さんになろうと思ったん?」
智洋「んー、単純に料理が好きやったから、かな」
仮面女優「そっか」
智洋「仮面女優ちゃんは?」
仮面女優「ん?」
智洋「小さい頃の夢、なんかなかったん?」
仮面女優「小さい頃の夢かぁ・・・」
『うーん』って言いながら真剣に考えてる(笑)
仮面女優「お嫁さん、かな」
智洋「お嫁さん!?」
仮面女優「ヘン?」
智洋「いや、ヘンちゃうけど・・・職業ちゃうやん(笑)」
仮面女優「まぁ確かに(笑)」
『お嫁さん』とか・・・可愛すぎるやろ(笑)
仮面女優「今でもお嫁さんって夢は変わってないねんで?」
智洋「そうなん?」
仮面女優「うん。お嫁さんになりたかった・・・」
智洋「・・・?」
『なりたかった』・・・?
仮面女優「実はさ、さっきフラれてん・・・」
智洋「え、さっきって・・・」
仮面女優「改まって話あるーなんて言うから、てっきりあたしプロポーズされると思うやん」
智洋「・・・」
仮面女優「そしたら別れてくれ、やって」
智洋「仮面女優ちゃん・・・」
仮面女優ちゃんは大きくため息をついた。
仮面女優「あたし悔しくて・・・、腹が立って・・・」
強気な発言してるけど・・・
目には今にもこぼれ落ちそうなほどの涙が溜まってた。
仮面女優「気がついたらここに来てた」
智洋「そっか・・・」
グスっと鼻をひとすすりして、目をゴシゴシこすった仮面女優ちゃん。
仮面女優「はぁーっ、神ちゃん!」
智洋「ん?」
仮面女優「あたし絶対にいい女になって、あたしをフッたこと、アイツに後悔させてやんねんっ!」
目と鼻を真っ赤にして、それでも笑顔で前を向こうとしてる。
そんな仮面女優ちゃんの力になりたい、俺は素直にそう思った。
智洋「よっしゃ!今日はとことん飲み!」
仮面女優「え?」
智洋「今夜は俺のおごりやっ」
その夜は2人で色んな話をしながら明け方まで飲み明かした。
智洋「はい、水」
仮面女優「ありがと」
コク・・・
仮面女優「ごめんね」
智洋「なに?」
仮面女優「付き合ってもらっちゃって」
智洋「ええよ」
仮面女優「神ちゃん」
智洋「ん?」
仮面女優「ごめんねついでに・・・もう1つ、お願いしたいことがあんねんけど・・・」
智洋「お願い?」
仮面女優「お料理、教えてくれへん?」
突然のお願いに正直ビックリしたけど、ここ最近は店も軌道に乗ってきたし、忙しい日は店を手伝ってもらうってのを条件に、俺は仮面女優ちゃんに料理を教えることになった。
智洋「ゆっくりでええから、均等な厚みになるように切るんやで」
仮面女優「えっと・・・こう?」
智洋「うん、ええやん」
仮面女優「やった♪」
小さな料理教室をきっかけに、俺と彼女の距離は縮まっていった。
仮面女優「智洋くん、味みて?」
智洋「ん・・・もうちょい塩足して」
仮面女優「了解」
智洋「ホンマにちょっとやで?」
最初は閉店後にって約束やったのに、いつの間にか店を手伝ってもらいながら教える日が多くなった。
カラカラ・・・
仮面女優「いらっしゃいませー」
智洋「あ、お久しぶりですっ」
仮面女優「・・・?」
「神ちゃん久しぶりやなー」
智洋「え、今こっちなんですか?」
「いや、今日はたまたま出張で」
智洋「じゃあまだ向こうに?」
「せやねん。もうちょい単身赴任になりそうや」
智洋「大変ですね」
「だいぶ慣れたけどな(笑)」
仮面女優「おしぼりです。どうぞ」
「あーありがとう」
仮面女優「お飲み物は何にいたしましょう?」
「熱燗で」
仮面女優「かしこまりました」
智洋「仮面女優、お通し頼むわ」
仮面女優「はい」
「なぁなぁ神ちゃん」
智洋「はい?」
「結婚したん?」
智洋「えっ///!?」
仮面女優「えっ///!?」
まさかの質問に2人とも変な声が出る。
「あ、ちゃうんや?」
智洋「ちゃ、ちゃいますよ(笑)///有り難いことに最近は新しいお客様にもよう来て頂くんで、手伝ってもらってるんです」
「そうなんや」
仮面女優「そうなんです(笑)」
「ふぅん・・・」
ま、それ以外も料理を教えてんねんけど・・・
そこはあえて伏せた。
「ごちそうさん、また来るわ」
仮面女優「ありがとうございます。またお待ちしてます」
他のお客さんを見送る仮面女優の姿を見て、さっきのお客さんが口を開いた。
「なぁ、彼女とはホンマになんもないん?」
智洋「えっ?なんもないですよ(笑)」
「他にいい人がいてるとか?」
智洋「そんな時間ありませんて(笑)」
「ふぅん・・・」
お客さん、だいぶお酒が進んではるな(笑)
仮面女優「そろそろのれん入れるね」
智洋「あ、頼むわ」
仮面女優「あ(笑)智洋くん、こっち向いて?」
智洋「・・・?」
言われるがままに顔を向けると、ふいに仮面女優の指先が俺の顔に触れた。
智洋「っ・・・///」
さっきのお客さんの言葉を思い出して、思わずドキッとしてしまう俺。
仮面女優「はい、ほっぺにお粉付いてたよ(笑)」
智洋「あ、ありがとう。いつ付いたんやろな」
仮面女優「子どもみたい(笑)」
智洋「子どもちゃうわ(笑)」
「うん、やっぱりお似合いや」
智洋「え?」
仮面女優「え?」
同時に見たお客さんはほろ酔いってこともあってか、満足そうな表情で俺らを見てる。
「2人はお互いがキライなんか?」
智洋「えっ///?」
仮面女優「・・・///」
「キライなんか、好きなんか、どっちや?」
智洋「ちょ、お客さん飲みすぎちゃいますか?」
「答えがちゃうっ、どっちやーって聞いてんねん」
仮面女優「・・・///」
「2人は一緒になるべき・・・や・・・」
そう言い残して、カウンターに突っ伏した。
仮面女優「寝ちゃった・・・ね(苦笑)」
智洋「せやな(笑)仮面女優、奥から毛布持ってきて」
仮面女優「はい(笑)」
仮面女優に毛布をかけられ、スヤスヤと寝るお客さん。
仮面女優「帰ってきたのが嬉しかったんやろね」
智洋「せやな(笑)」
と、ふいに仮面女優と目が合った。
改めて考えると仮面女優とは不思議な関係や。
師弟でも、恋人でも、店主と店員でもない。
智洋「仮面女優」
仮面女優「・・・?」
智洋「このまま、俺の店・・・手伝ってくれへんかな・・・」
仮面女優「え・・・?」
智洋「あ、いや・・・無理、やんな。仕事あるし」
仮面女優「・・・」
仮面女優は俯いて黙り込んでしまった。
仮面女優「あの・・・」
智洋「?」
仮面女優「あの、ね?」
顔を上げた仮面女優は、俺を真っ直ぐ見つめた。
仮面女優「実は・・・仕事辞めようかなって・・・思ってて」
智洋「え・・・?」
仮面女優「仕事、辞めて・・・ここで・・・、智洋くんのそばで、智洋くんを支えたい・・・」
智洋「っ・・・」
仮面女優「そう思ったら・・・アカン、かな?」
そう言ってまた俯いた。
智洋「・・・俺、仮面女優の夢叶えたい」
仮面女優「え・・・?」
智洋「お嫁さんになるって仮面女優の夢、俺に叶えさせて?」
仮面女優「っ・・・///」
カウンターの上にあった仮面女優の手に自分の手を重ね、そのまま顔を近づけた・・・
のに。
「ふんがっ!」
智洋「っ///!?」
仮面女優「っ///!?」
お客さんにあっけなくジャマされた(泣)
智洋「ま、これからゆっくり・・・な///」
仮面女優「うん///」
1年後・・・
1人で始めた店は、仮面女優と2人の店になり、
そして・・・
仮面女優「お待たせしましたー」
智洋「ちょっ、バタバタ動かんでええから(焦)」
仮面女優「もぉ、大丈夫やって。相変わらず大げさやなー(笑)」
もうすぐ跡取りが増えそうです・・・♪
‐END‐