Theater WEST

□Movie3
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【夢を叶える小料理屋】



カラカラ・・・



智洋「いらっしゃいませ」


「もう閉店かな?」

智洋「大丈夫ですよ。あ、カウンターどうぞ」



1年前、俺は修行してた割烹料理屋から独立し、念願の小料理屋を開いた。



智洋「いつものでいいですか?」

「せやな、頼むわ」

智洋「かしこまりました。お連れ様はなんにしましょう?」

「えっと・・・私も同じので」

智洋「かしこまりました」


「この子な、行きつけの店が欲しいーって言うてたから、ほんなら神ちゃんの店しかないやろーって連れてきた」

智洋「ホンマですか!ありがとうございます」



常連さんが連れてきたのは、俺と同世代ぐらいの女の子やった。



♪〜♪〜



「あ、悪い。会社からや。ちょっと席外すわ」

仮面女優「はい」



店に残された俺と彼女。



智洋「味、大丈夫ですか?」

仮面女優「はい、すっごく美味しいです」

智洋「良かったです」

仮面女優「あの・・・」

智洋「はい?」

仮面女優「また来てもいいですか?」

智洋「もちろんです!いつでもどうぞ」

仮面女優「へへっ///ありがとうございます」



その日以来、彼女は店によく来てくれるようになった。



カラカラ・・・



智洋「すみません、もう閉店・・・」



そんなある日の夜遅く、板場を片付けてた時に店に来たのは仮面女優ちゃんやった。



仮面女優「ごめんなさい、お店閉まるならまた・・・」

智洋「あ、ええよ」

仮面女優「え・・・?」

智洋「常連さんなら話は別や」

仮面女優「・・・ありがとう」

智洋「大したもん出されへんけど・・・ええ?」

仮面女優「うん」



いつもの席に座ったのに、いつもの仮面女優ちゃんじゃなかった。



智洋「なんかあった?」

仮面女優「え?」

智洋「いつもと違うから」

仮面女優「へへっ・・・神ちゃんには分かっちゃうんやね・・・」

智洋「俺じゃなくても分かるわ。そんな落ち込んでたら」

仮面女優「そか・・・」



そんなに無理して笑わんでもええのに・・・



智洋「はい、だし巻き」

仮面女優「ありがとう」

智洋「これ、お気に入りやろ?」

仮面女優「うんっ」



俺の自慢のだし巻きは、仮面女優ちゃんのお気に入りでもあった。



仮面女優「・・・美味しぃ」

智洋「良かった」



やっと素直な笑顔になった。



仮面女優「神ちゃんはさ、なんで板前さんになろうと思ったん?」

智洋「んー、単純に料理が好きやったから、かな」

仮面女優「そっか」


智洋「仮面女優ちゃんは?」

仮面女優「ん?」

智洋「小さい頃の夢、なんかなかったん?」

仮面女優「小さい頃の夢かぁ・・・」



『うーん』って言いながら真剣に考えてる(笑)



仮面女優「お嫁さん、かな」

智洋「お嫁さん!?」

仮面女優「ヘン?」

智洋「いや、ヘンちゃうけど・・・職業ちゃうやん(笑)」

仮面女優「まぁ確かに(笑)」



『お嫁さん』とか・・・可愛すぎるやろ(笑)



仮面女優「今でもお嫁さんって夢は変わってないねんで?」

智洋「そうなん?」

仮面女優「うん。お嫁さんになりたかった・・・」

智洋「・・・?」



『なりたかった』・・・?



仮面女優「実はさ、さっきフラれてん・・・」

智洋「え、さっきって・・・」

仮面女優「改まって話あるーなんて言うから、てっきりあたしプロポーズされると思うやん」

智洋「・・・」

仮面女優「そしたら別れてくれ、やって」

智洋「仮面女優ちゃん・・・」



仮面女優ちゃんは大きくため息をついた。



仮面女優「あたし悔しくて・・・、腹が立って・・・」



強気な発言してるけど・・・


目には今にもこぼれ落ちそうなほどの涙が溜まってた。



仮面女優「気がついたらここに来てた」

智洋「そっか・・・」



グスっと鼻をひとすすりして、目をゴシゴシこすった仮面女優ちゃん。



仮面女優「はぁーっ、神ちゃん!」

智洋「ん?」

仮面女優「あたし絶対にいい女になって、あたしをフッたこと、アイツに後悔させてやんねんっ!」



目と鼻を真っ赤にして、それでも笑顔で前を向こうとしてる。


そんな仮面女優ちゃんの力になりたい、俺は素直にそう思った。



智洋「よっしゃ!今日はとことん飲み!」

仮面女優「え?」

智洋「今夜は俺のおごりやっ」



その夜は2人で色んな話をしながら明け方まで飲み明かした。



智洋「はい、水」

仮面女優「ありがと」



コク・・・



仮面女優「ごめんね」

智洋「なに?」

仮面女優「付き合ってもらっちゃって」

智洋「ええよ」


仮面女優「神ちゃん」

智洋「ん?」

仮面女優「ごめんねついでに・・・もう1つ、お願いしたいことがあんねんけど・・・」

智洋「お願い?」


仮面女優「お料理、教えてくれへん?」



突然のお願いに正直ビックリしたけど、ここ最近は店も軌道に乗ってきたし、忙しい日は店を手伝ってもらうってのを条件に、俺は仮面女優ちゃんに料理を教えることになった。



智洋「ゆっくりでええから、均等な厚みになるように切るんやで」

仮面女優「えっと・・・こう?」

智洋「うん、ええやん」

仮面女優「やった♪」



小さな料理教室をきっかけに、俺と彼女の距離は縮まっていった。



仮面女優「智洋くん、味みて?」

智洋「ん・・・もうちょい塩足して」

仮面女優「了解」

智洋「ホンマにちょっとやで?」



最初は閉店後にって約束やったのに、いつの間にか店を手伝ってもらいながら教える日が多くなった。



カラカラ・・・



仮面女優「いらっしゃいませー」

智洋「あ、お久しぶりですっ」

仮面女優「・・・?」


「神ちゃん久しぶりやなー」

智洋「え、今こっちなんですか?」

「いや、今日はたまたま出張で」

智洋「じゃあまだ向こうに?」

「せやねん。もうちょい単身赴任になりそうや」

智洋「大変ですね」

「だいぶ慣れたけどな(笑)」


仮面女優「おしぼりです。どうぞ」

「あーありがとう」

仮面女優「お飲み物は何にいたしましょう?」

「熱燗で」

仮面女優「かしこまりました」


智洋「仮面女優、お通し頼むわ」

仮面女優「はい」


「なぁなぁ神ちゃん」


智洋「はい?」


「結婚したん?」


智洋「えっ///!?」
仮面女優「えっ///!?」



まさかの質問に2人とも変な声が出る。



「あ、ちゃうんや?」

智洋「ちゃ、ちゃいますよ(笑)///有り難いことに最近は新しいお客様にもよう来て頂くんで、手伝ってもらってるんです」

「そうなんや」

仮面女優「そうなんです(笑)」

「ふぅん・・・」



ま、それ以外も料理を教えてんねんけど・・・


そこはあえて伏せた。



「ごちそうさん、また来るわ」

仮面女優「ありがとうございます。またお待ちしてます」



他のお客さんを見送る仮面女優の姿を見て、さっきのお客さんが口を開いた。



「なぁ、彼女とはホンマになんもないん?」

智洋「えっ?なんもないですよ(笑)」

「他にいい人がいてるとか?」

智洋「そんな時間ありませんて(笑)」

「ふぅん・・・」



お客さん、だいぶお酒が進んではるな(笑)



仮面女優「そろそろのれん入れるね」

智洋「あ、頼むわ」

仮面女優「あ(笑)智洋くん、こっち向いて?」

智洋「・・・?」



言われるがままに顔を向けると、ふいに仮面女優の指先が俺の顔に触れた。



智洋「っ・・・///」



さっきのお客さんの言葉を思い出して、思わずドキッとしてしまう俺。



仮面女優「はい、ほっぺにお粉付いてたよ(笑)」

智洋「あ、ありがとう。いつ付いたんやろな」

仮面女優「子どもみたい(笑)」

智洋「子どもちゃうわ(笑)」



「うん、やっぱりお似合いや」



智洋「え?」
仮面女優「え?」



同時に見たお客さんはほろ酔いってこともあってか、満足そうな表情で俺らを見てる。



「2人はお互いがキライなんか?」


智洋「えっ///?」
仮面女優「・・・///」


「キライなんか、好きなんか、どっちや?」

智洋「ちょ、お客さん飲みすぎちゃいますか?」

「答えがちゃうっ、どっちやーって聞いてんねん」

仮面女優「・・・///」

「2人は一緒になるべき・・・や・・・」



そう言い残して、カウンターに突っ伏した。



仮面女優「寝ちゃった・・・ね(苦笑)」

智洋「せやな(笑)仮面女優、奥から毛布持ってきて」

仮面女優「はい(笑)」



仮面女優に毛布をかけられ、スヤスヤと寝るお客さん。



仮面女優「帰ってきたのが嬉しかったんやろね」

智洋「せやな(笑)」



と、ふいに仮面女優と目が合った。


改めて考えると仮面女優とは不思議な関係や。


師弟でも、恋人でも、店主と店員でもない。



智洋「仮面女優」

仮面女優「・・・?」




智洋「このまま、俺の店・・・手伝ってくれへんかな・・・」

仮面女優「え・・・?」

智洋「あ、いや・・・無理、やんな。仕事あるし」

仮面女優「・・・」



仮面女優は俯いて黙り込んでしまった。



仮面女優「あの・・・」

智洋「?」

仮面女優「あの、ね?」



顔を上げた仮面女優は、俺を真っ直ぐ見つめた。



仮面女優「実は・・・仕事辞めようかなって・・・思ってて」

智洋「え・・・?」

仮面女優「仕事、辞めて・・・ここで・・・、智洋くんのそばで、智洋くんを支えたい・・・」

智洋「っ・・・」

仮面女優「そう思ったら・・・アカン、かな?」



そう言ってまた俯いた。



智洋「・・・俺、仮面女優の夢叶えたい」

仮面女優「え・・・?」



智洋「お嫁さんになるって仮面女優の夢、俺に叶えさせて?」



仮面女優「っ・・・///」



カウンターの上にあった仮面女優の手に自分の手を重ね、そのまま顔を近づけた・・・



のに。



「ふんがっ!」


智洋「っ///!?」
仮面女優「っ///!?」



お客さんにあっけなくジャマされた(泣)



智洋「ま、これからゆっくり・・・な///」

仮面女優「うん///」



1年後・・・



1人で始めた店は、仮面女優と2人の店になり、


そして・・・



仮面女優「お待たせしましたー」

智洋「ちょっ、バタバタ動かんでええから(焦)」

仮面女優「もぉ、大丈夫やって。相変わらず大げさやなー(笑)」



もうすぐ跡取りが増えそうです・・・♪




‐END‐
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