BL novel

□もっと欲するべし
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宿題をやり終えてふと耳を澄ますと、雨の音が聞こえる。カーテンを開き窓を開けると、案の定、雨が降っていた。
 
(あー、こりゃ明日グラウンドだめだな)
 
雨の後のグラウンドは水溜まりが酷く、野球なんて出来ない。そういう時はでっかいスポンジで水を吸い取りグラウンド整備をするのだが、何せ広いため、練習時間の半分は潰れる。
 
だから、雨は嫌いじゃないけど、好きでもなかった。…前までは。
 
(…アイツ、元気してっかな)
 
今頃あの銀色の髪を雨の様に撒き散らしながら走り回ってるだろう。彼の雨は綺麗で、時に残酷。けど、オレはあの雨は大好きだった。
 
雨が降ると思い出してしまう。
前までは敵同士。今は師匠であり、ライバルであり、仲間で、恋人。
本気でぶつかり合った中なのに(もしくはそれ故か)、今は普通より一歩踏み出た関係になっている。世の剣士たちも驚きだ。
 
(あ…なんかやばい)
 
一度考え出してしまうと、彼の事ばかりが頭の中をぐるぐる回る。会いたくて仕方なくなってしまう。…そんな甘えは、許されないとわかっているけど。彼は忙しい身だし、ここへ来るのも一苦労。
 
「スクアーロ……」
 
「なんだぁ?」
 
「へ?わっ、うわぁっ!!!」
 
ひょこっという効果音が付きそうな感じに窓の上から顔を逆さにして覗いて来たのは、先程から脳内を占領していた彼だ。思わず叫んで後ろに下がり、勉強机にぶつかった。地味に痛い。
なんだぁその化け物でも見たような反応はと言う、屋根に乗って覗いているのだろう彼は、長い髪が重力に従って垂れ下がって、その先から水滴がポタポタと落ちていく。…言ったら怒られるから言わないが、その光景はちょっと面白かった。
 
「叫んだりニヤついたり、変な奴だぁ」
 
そのまま回転して窓の縁に着地する。
 
「ああ待って!今タオルと…新聞取ってくる!」
 
靴は新聞の上に乗せてと言い残し、オレは下に降りていった。……玄関から入ればいい話なんだけどなぁ。


 



 



「びっくりした」
 
「そりゃオレのセリフだぁ。いきなり叫びやがって」
 
「だって…来るとは思わなかった」
 
タオルで拭いてはいるが、それでも拭ききれなかった雨水がポタポタと垂れている。
その姿はとても色っぽくて……
 
「…それでよぉ」
 
「へ…へ?何?」

 



「…なんでオレの名を呼んでたんだぁ?」

 



…う。どうしよう。なんて答えればいいのだろう。
この人は鈍いようで、結構鋭い。それはもう、普段左腕に身に付けている刃の如く。しかし、正直に答えたくはなかった。会いたくて呟いてたなんて言ったら、優しいこの人は今度から無理して会いに来るかもしれない。…決して自惚れではないと思う。自分だったらそうする。まぁ、この人はそんなこと言わないだろうけど。

「聞いてるのかぁ?」

ずっと黙っていたオレを不審に思い、顔を覗いてきた。…ああ、だめだ。

「う゛ぉっ…」

気づけばオレは彼の胸に顔を埋めていた。まだ濡れていたそれに抱き付いてオレの服も冷たくなったけど、そんなこと気にならなかった。襲ってきた羞恥も無視だ。

「…何かあったのか」

「……別に」
 
それ以外何も言わずに背中に手を回してくれることが嬉しい。冷たくても、心地良かった。
 
「オレはてっきり…」
 
「ん…?」
 
「オレを恋しんでるのかと思ったんだがなぁ」
 
ドキッと心臓が跳ねる音がした。それがスクアーロにも伝わったらしく、なんだぁ図星かと笑いながら頭を乱雑に撫でられる。
顔に熱くなる。意識しないように、スクアーロの服をぎゅっと握り締めた。
 
「会いたいなら会いたいと、素直に言えや」
 
「だって…」
 
「あ゛ん?」
 
「…困らせたく、なかったし」
 
それを聞いたスクアーロは深くため息を付くと、体を少し離し、オレと視線を合わせる。
 
「好きなヤツに求められたら、嬉しいに決まってんだろーが。
テメェは無欲過ぎんだぁ。困ったりしねぇから、ガキはガキらしく、もっと我が儘でいやがれ!」
 
そしてまた、さっきより強く抱きしめられた。それに反し小さい声で囁く。
 
「……会いたかったぜぇ…武」
 
…どうしようもなく、この人が愛しい。オレの悩みをことごとく昇華していくこの人が、愛しくてたまらない。
そして、会いたかったという言葉が嬉しかった。オレを求めてくれていたことが。オレと同じことを思ってくれていたことが。
こんな気持ちになれるなら、彼にも伝えよう。

 

「会いたかった…スクアーロ」


 


そしてオレは、満足気に笑った貴方に我が儘を言った。
キスしたいって。

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