BL novel

□追って追われて
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「スクアーロ、いつも剣の相手サンキューな。はいお茶。」
 
「…ああ」

 

冷えた烏龍茶を注いだコップを受け取り、それを飲みながらオレの本棚から適当に出した漫画を読む青年を何となく見つめる。いつ見ても、その銀髪は綺麗だと思う。

 

スクアーロがオレの所に来た時は、大抵剣の相手をしてもらっている。
 
リング戦には勝ったけど、やはりスクアーロの方が強く、学ぶことは多い。オレはそんな彼に魅了され、憧れを持った。

 

剣を交えた後、彼はいつも言う。やはりお前は剣の道を歩むべきだ、と。
 
「…何故、生まれながらの素質を生かそうとしない。それでは宝の持ち腐れだ。……こっちへ来い。」
 
憧れの相手が手を差しのべてくれる。普通ならなんの躊躇いもなく取れるだろうけど、差し出された手を取る勇気を、まだオレは持っていなかった。
…いや、今のオレが取ろうとしたら、彼は振り払うかもしれない。差し出して振り払うなんて、何か矛盾してるけども。
 
オレはまだ野球を捨てられない。野球をしながら剣を続けることもできるだろうけど、きっと彼が望むのはそんなオレじゃない。
曖昧な気持ちで彼に追い付けるはずもないのに、野球を手放す勇気を持てない自分にもどかしさを感じつつ、剣を手放すことも出来ずにどうすればいいかわからなくなっていた。
 

剣を手放すことは、友達を守れなくなることを意味する。そして…彼との繋がりもなくなる。それは嫌だった。
オレは、どうすればいいのだろう。

 

「…アホが考え込むんじゃねぇ」
 
そう言われたと同時に額に軽い痛み。
一瞬何されたかわからなかったけど、手がすぐ近くにあってデコピンされたんだと知る。読んでた漫画はいつの間にやら床に置かれていた。
 
「んな難しい顔して見つめられたら落ち着かねぇだろーが」
 
その手は今度は頭に持っていき、くしゃくしゃと乱暴に撫でられる。オレはこの行為が好きだった。乱暴だけど、どこか優しいのだ。きっとそれを知ってるのはオレだけだと思うと、何ともいえない優越感を感じる。
…離れて欲しくないと思う。

 
「だから、んな顔すんじゃねぇ」
 
「…ごめん」
 
スクアーロはため息をつくと、後頭部に手を持っていき、そのまま引き寄せ彼の胸に押し当てられた。
いきなりのことで慌ててしまう。
 
「す…スクアーロ?」
 
「……追いかけてこい」
 
「え…?」
 
顔を上げると、髪と同じ色の瞳が真剣にこっちを見ていて、少しびっくりしてしまった。
 
「…オレは、待ってる。お前が追いかけてくるのを。剣を手放しても拾って無理矢理持たせてやる。
…だが、慌てることはねぇ。剣はどうしても強くなりてぇ時に選べ。最終的にはテメェの判断だぁ。
それが野球だろーが剣だろーが……
 

…オレは、気持ちを変えたりしねぇよ」
 
…なんでこの人は、自分が質問する前に答えてしまうのだろう。
涙が出そうになるのを堪えて、彼の背中に手を回し胸に顔を埋める。
 
「…ごめん」
 
「謝るな。…野球選んでも、オレは剣を持たせるのを諦めねぇぞ。
ぜってぇ逃がさねぇ」
 
「ははっ、何だよ。追いかけてもらう為に追いかけるのか?」
 
「そういうことになるなぁ」
 
「変なの」
 
しばらくお互いに笑いあって、彼に体を預けて目を閉じる。
「…同じ道を歩きてぇんだってことを、いい加減察しやがれ…」
という呟きにドキッとしつつ、照れ臭そうに言い放った彼に小さく笑うと「笑うな」とさっきよりも更に乱暴に頭を撫でられた。


 


 


慌ててしまうけど、彼が待ってるって言ってくれるなら、
しばらくは悩みっぱなしでも、いいかなぁ。


 


fin.

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