BL novel
□たまにある日常
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「あ、おかえり!」
仕事から帰ってきて家のドアを開けてみれば、いつもの笑顔で武が迎えてくれた。
食をそそる香りと共に。
それはいい。それはいいんだ。
ただ…
エプロンを着ての出迎えは初めてだぞ。
「……た、だいま…」
呆気に取られているうちに持っていた荷物は奪い取られる。
やべぇ、今のオレ隙がありすぎると思いながら武の顔を見る。
何故か楽しそうだ。
「風呂、沸いてるから入ってきていいぜ。それとも食事にするか?」
よくあるフレーズに似たその言葉にドキッとしたのも束の間、武の顔が近付いてきて
「……それともオレ?」
「な…っ!」
男の憧れとも言えるセリフを言われ(相手も男だが)、顔が熱くなる。
「……ってのは冗談で、まだ食事の用意できてねぇから風呂入っててな」
「…選択肢無意味じゃねぇか…」
なんとも言えぬ敗北感を背負いながら浴室に向かった。
風呂から上がれば食事の用意ができていた。
武も作る料理のレパートリーが増えたなぁ。感心。
オレの為に、とか思うのはさすがに自惚れすぎだろうか。
そしていつも通りに武と向かい合わせになって舌鼓を打つわけだが。
「……あ、あのさスクアーロ」
「なんだぁ?」
ザクッと、蒸し海老をフォークに刺し、こっちへ向け、
「…あーん」
「…………………へ」
赤くなりながらフォークをこっちに向ける武に軽く困惑。今日オレの誕生日だったか?…ちげぇ、今日は11月22日…なんの日でもねぇ。
「…いやだ?」
武が悲しい顔を浮かべ始めたので、慌てて差し出された物を口に含む。
途端、嬉しそうに破顔する。コロコロ変わるその表情はいつ見ても楽しいものだ。
ってそうじゃねぇ。
「美味しい?」
「……おう」
正直恥ずかしすぎて味わかんねぇ。
「武…今日はどうしたんだぁ?」
「ん?何が?」
質問を質問で返される。予想外の返答。
どうやら武が何か企んでるというわけではないようだ。オレの考えすぎか…?
「…いや、なんか新婚みたいだなと思っただけだ」
オレの言葉に、武は照れ臭そうに笑うだけだった。
(…いい夫婦の日だから夫婦っぽい生活をしてみたかったなんて、恥ずかしくて言えないのな…)
fin.