BL novel
□剣士たちの朝
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なんとなく聞こえていたのが鳥の鳴き声だと気付くのには時間が掛かった。
白いレースに透き通る光がオレごとベッド全体を照らし、その眩しさに目を覚ました。
まだ明るさに慣れない目が反射的に閉じる。パチパチと何度か瞬きをしていれば、自然と目は光を受け入れていった。
しかしまだ完全に覚醒したわけではなく、未だに頭は思考を停止させていて何も考える気にならない。ただ天井を見つめ、その色が白いという情報しか脳に入って来なかった。まぁこの情報は今更なことである。オレがここに住んで、もうどれくらい経っただろうか。彼と出会ったのが10年前で、一緒に住みだしたのは…5年前だったかな?
…なんて、いつの間にか回復しつつあった思考が鳥の鳴き声に混ざる小さな呼吸音を捉える。
ゆっくりとその音のする方向に目を向ければ、これまた見慣れた男の寝顔が映った。その長い髪は垂れ下がり枕やシーツの上に散らばっていて、白い顔や肩が晒け出ていた。
射抜くような鋭い瞳は伏せられ、一定のリズムで小さく呼吸する彼は三十路過ぎではあるけど可愛いと思う。言ったら怒られるけど。
そっと頬に触れてみても、そのリズムは変わらなかった。……前なら、これくらいのことでも起きたのに。オレの隣は居心地がいいと、前に言ってたのを思い出す。彼に認めれたのだと感じて嬉しくなった。
こうして見ると一見大人しそうなのに、この口から出るのは思わず耳を押さえたくなるほどの大声なんだよなぁと考えながら小さく笑い、その唇に自分のそれを重ねた。その柔らかい感触をしばらく感じてから離れる、と同時に、一定のリズムは崩れ伏せられていた瞳が開かれた。オレと同じようにパチパチと瞬いて、髪と同じ色の色素の薄い瞳が自分に向けられる。口が孤を描いた。
「……タケシ」
まだ寝ぼけ気味のその声に笑う。
「おはよ、スクアーロ」
スクアーロは上半身を起こし軽く伸びをして、コキコキと首を鳴らす。
こんな無防備な剣帝を見たら、世の中の剣士たちはどう思うだろう。
「…キスされて起きるなんて、スクアーロ姫みたい」
「はぁ?」
返事は呆れた口調だったけど、顔は笑っていた。まだ寝そべっているオレの髪をわしゃわしゃとかき回して、唇にキスを落とされる。
「姫はお前の方がお似合いだと思うぜ」
おら、キスされたんだから起きろと、オレの肩を叩く。
「ごーいんな王子様」
笑いながら起き上がれば、今度は頬にキスされた。
今日の朝も幸せだ。
さて、幸せをくれる王子様のために朝ご飯を作ってあげよう。