BL novel
□溢れる想い
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「武……」
突然出た言葉に思わず口を抑え、慌てて周りを見渡す。誰もいない。当たり前だ、ここはボンゴレの息がかかった日本のホテルで、オレの借りた部屋だ。
誰かに聞かれていたら恥ずかしいってレベルではない。ふう、と息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
何度目だろうか。こうして無意識に武の名前を呟くのは。
風呂に入ってる時、ベッドに寝そべってボーッとしてる時、携帯電話を弄ってる時。いきなり口から飛び出す名前。
決まってるのはリラックスしてる時というだけ。
武のことを考えている時に出てくるのならわかる。しかしなんの予告もなしに出てくるから自分でも驚く。
これは、武に会いたいと心のどこかで思っているからだろうか…。
いやいや、今日はついさっきまで武と会っていたではないか。
いつもの笑顔に癒されて、昨日仕事だったオレを気遣う言葉に心を擽られて。
手合わせをすれば、武の成長が垣間見えて。
部屋に戻り談笑すれば、いつの間にかそれなりの雰囲気が流れる。
キスに未だ初々しい反応する武が可愛くて、それにムキになる武は更に可愛い。
それでも、武からもキスされるようになった。それはただ唇を重ねるだけの行為だが、それだけで嬉しくなるオレは単純だと思う。
そして夕方、また連絡すると伝え、いつものように別れた。
いつもと変わりない。
じゃあ、何が足りないんだ?
〈コンコン〉
……?
ドアのノック音に思考を中断する。ヴァリアーはオレ以外来ていないはず。部下なら無線を使う。
殺気はないが一応警戒しつつドアに近付く。
「誰だぁ?」
「オレ、わかる?」
「なっ!?」
わからないわけがなかった。ドアを開ければ、少し困った顔で笑う山本武がいた。
「よっ。あのさ、これ」
差し出された物を見ると、それはオレが愛用しているボールペンだった。
「忘れ物。これ届けに来たんだ」
……こんなペン一本を、わざわざ…?
「じゃあ、それだけだから!」
「!待て!」
早口に喋り帰ろうとする武の腕を掴む。武はゆっくり振り返り、オレの名を小さく呼ぶ。
…もしかして、お前も?
どこか様子のおかしい武を見ながら、先程の疑問を重ねる。
けど、その答えよりも、今は。
今はお前が欲しい。
腕を掴む手に力を込める。
「…部屋、入れ」
抵抗はなかった。
「…っ、スクアーロ…?」
部屋に連れ込んでベッドに座らせて、抱き締めた。
こうしていれば、何かが埋まるような気がして。
それでもどこか物足りなくて、体を少し離し、武の唇に噛み付いた。
「っ!…は…」
ビクッと体を震わせた武の頭を掴み、更に深く口付ける。
戸惑いながらも受け止めてくれる武が、愛しい。
「んっ……」
僅かな隙間から溢れる声にゾクゾクする。
オレの服を掴んで必死に応える武を支えながら、何度も角度を変えて舌を絡ませ、甘噛みする。
最後に唇を舐めて離れると、恍惚とした表情でオレを見つめる武。僅かに涙目なその顔は、まだまだ少年の域を抜けない武を更に幼くさせる。可愛くて仕方ない。
「武…」
「…何?」
「……オレは……」
自分で思っているより、お前に依存しているのかもしれない。
まるで麻薬のように。
無意識のウチにお前を求めて、側に居るなら離したくなくて。
これまで通りでは足りなくて。
どんどんお前が欲しくなる。
「もう、"好き"という言葉では収まらない」
「………」
じぃ…っとオレを見つめてたかと思うと、オレの頬に手を添える。顔が近付いて、唇が重なった。
すぐに離れて、またオレを見つめてくる。
「スクアーロ……」
武がオレの首に腕を絡ませる。
「言って……」
オレは抱き締め返す。
気付けばオレたちは、この奇妙で甘い関係にここまで入り込んでしまった。もう抜け出す術はない。
…抜け出すつもりなど、さらさらない。
「……愛してる、武」