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□衝動で生きています
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男は何時だって自分の気持ちを下手に隠したりはしない人だと思う。いうなれば自分に正直なのだろう。簡単なようで難しいその生き方をやってのける男は、ころころと表情を変えては、それでも最後には笑うのだ。生きていることが楽しいといわんばかりの笑みは、いつだって曇ることなどなく(ああでも誰もいない所では泣いていたりもするのかな、なんて)、世界に、人々に、愛を囁くのだ。嗚呼素敵な毎日だ、と。

兎にも角にも、彼は自分を抑えない。いい歳した大人なのだから自制ぐらい覚えてください、なんて常日頃思うし、(それでも許されてしまうのだから堪ったもんじゃない)(許してしまうのは自分もなのだが)彼の幼馴染であるジェイドもやれやれ、と溜め息を零したり不機嫌に表情を変えることもあるぐらいだ。(旅の時はいつだって人をからかってばかりいたジェイドを振り回すことぐらい皇帝には容易いのだろう)
以前、いつまでも童心を忘れないのはいいですが少しぐらいは成長してくれませんか等とフリングス少将が問うてみたところ、それが俺の魅力だと力説されてしまったと聞いたのもつい最近のことである。
確かにクールで物静かで何事にも丁寧に取り組む陛下なんて想像出来ないし、気持ち悪いと思う(陛下には悪いが)それを踏まえれば確かに彼の魅力なのだろう、そうなのだろう、けれども。

「やっぱり少しは自制を覚えていただけないでしょうか」
「そりゃ魅力的なガイラルディアが悪いだろう」

毎回思いますがどんな言い訳ですか、それは。
陛下のベッドの上に放り投げられて上体を上げようと思った時には既に陛下に押し倒されている状況、と見事な流れ技で(褒めてる場合じゃないけれども)今陛下を見上げるしか術のない自分に陛下はにっこりと笑う。
まだ一ヶ月も経たないが、それでも過度なスキンシップという名のセクハラ(いや、違う)(違うと思いたい)(男相手にセクハラなんて信じたくない)に数えきれないぐらいにあっている。
その度に何を考えているんですかやめてください、少しでも抵抗すれば彼は決まって笑顔でいうのだ。ガイラルディアが悪い、と。
人の所為にしてそれでも笑顔でいる皇帝に何を言ってるんだ、と最初こそは思ったもののそれでも近づいてくる唇に言葉の意味を理解してしまい、それからはそんなことは考えもしなくなった。
聞けば一目惚れだったのだと言われて、なんだ顔が好みだったのですねと愚痴ったところ、今はガイラルディアのすべてが好きだ、と額にキスを落とされたこともある。恥ずかしいぐらい真っ直ぐな陛下の愛に戸惑ってしまうこともよくあることで、いつだったかそれが嬉しいのだと陛下は言っていた。
動揺しているということは意識してくれているのだろう。言い当てられて言葉の返せなくなった自分にお決まりの笑顔に愛の言葉を添えて囁くのだ。愛してるぞ、何度でも飽きずに。


「なあいいだろう、ガイラルディア」

何度も落とされる触れるだけの口付けに目を瞑って受け入れる。時折唇を舐められて口を開けるよう促されたがそれだけは意地として聞き入れる気はなかった。
うっすらと目をあければ不機嫌なその表情に思わず苦笑してしまう。
仕方ないのだ、それ以上はきっと踏み込んではいけない領域だと自覚していた。理性だ道徳だと言ってしまえばそれもそれで間違いではないのであろう。自分が理性的な人間だと思ったことはないが、それでもそういう判断に出てしまうぐらいには。
けれどもそれはこの衝動で生きている男には通用するはずがないのだ。
口を開けろ、嫌です、聞き入れん。
我が儘にも近いその言い分にそれでも真面目に向き合って拒絶する。それも今日を以って崩れてしまいそうな脆さであったが。
腰を掴んでいた手が服のボタンを開けようと動くのに気づいてその腕を掴む。まだされたことのないその行為に対する恐怖でではなく、純粋に。

「陛下、これ以上はきっと陛下が後悔なさいますよ」

告げたその言葉に男はにやりと笑う。自信満々なその笑みは愛を囁くときのそれににて、何処か子供染みたそれであった。

「俺は後悔などしないさ」

愛してる、次いで告げられたその言葉に丸み飲まれてく感覚がした。



衝動で生きていますが後悔したことは一度もありません
(間違いでもなんにせよ)
(後悔なんて感情にしたくないだろう)

お題配布元なれ吠ゆるか

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