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□きみに、
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何時からだろう、したきみは
(死を知らずして泣くだろう)




死ぬだろうと宣告されてそれでどうしよう等とぼんやり考えた。明日だろうか明後日だろうか、警告も何もない恐怖に現実感は余りない。嗚呼でも死ぬことが嘘だろうなんて思いやしないがそれでも嘘であればいいとは思う。感じる恐怖は大きすぎて今にも潰れてしまいそうなぐらい痛かった。とっさに吐いた嘘を取り消して縋ってしまえばその恐怖は消えるのだろうか、否そんなことはないだろう、これは意地だ、嘘でしか自分を保てない自分の精一杯の意地なのだ。誰かの涙なんて見てしまえば自分は前には進めない、後悔する、多分自分も泣くだろう、泣いてしまいたい。それでも世界は晴れ、きっと明日も晴れ。世界は酷いぐらいに自分を突き放す、試すように。



さあ明日は最期の日ね大丈夫あなたは生きるわ明日も明後日もずっとずっとずっとあなたは死なない、なんて。
仲間である彼女の願いと意地と絶望的な期待を胸に夜を過ごす、ただ眠れない。
それは多分終わることへの恐怖だったり別れへの淋しさだったりするのだろうけど、けれどそんなの自分ではどうしようもなさ過ぎてどうしたらいいのかどうするべきなのかわかるはずもなく薄暗い外を歩く。灯りは必要なかった(それとも欲しくなかったのか)
空を見上げればバチカルよりも確かに綺麗に見える星空に感動して吐いた息は白く少し肌寒い。上着でも羽織ればよかったかなんて宿屋から随分離れたところいる自分には今更過ぎて取りに戻る気にはなれなかった。思うのは、そう、少しだけ寂しい、なんて。

じゃりじゃりと砂を踏む度に鳴る音がまるで自分の存在を主張しているようで、その音を鳴らすことが気持ち良くて少し不安だった。じゃりじゃりじゃりじゃり、止まらない。町の外れを歩けば誰ともすれ違うこともなく、まあそうじゃなくてもこんな時間なら人と会う心配なんてしなくてもいいのだろう。どんどん離れていく、振り返らないからわからないけど進んでいるわけだから確かだった。このまま何処かに逃げようなんて思わない、最期を覚悟したから、それでも、どうしてか仲間と顔を合わせるのが怖かった。覚悟したはずの意地が決心が崩れていきそうな、そんな錯覚が襲う、それは駄目なのに、したくないのに。
薄らと空が色付く、薄い青が空の色が覗く、ああ帰らなきゃ。

自分という存在を消す為に。



宿屋に戻ればしんと静まり帰ったロビーに迎えられる。誰もいるわけないよな、なんて残念のような、けれどもほんの少しの安心が心に穴を開けて埋める。約束の時間まで少しだけある余裕に、ああ寝てしまえと割り当てられた部屋へと足を向ける。ぎしぎしと悲鳴を上げる階段を登りきればその部屋はすぐ傍にある。扉を開けてそしたら直ぐに布団に潜ろう、きっと今よりは暖かいはずだ。古びた音と共に開けた扉の先には思いがけない人がいてそれは中断されるわけだけれども。

「やっと帰ってきたか」
「ガイ、なんで」
起きてるんだよ。
驚いて聞けば静かに皆まだ寝てる、と注意されてはっとする。やばい、と顔に現れたのかそれに大丈夫といわんばかりの笑みを浮かべてガイは質問に答える、寝付けなかったんだ。
「でも明日、っていうか今日はヴァン師匠と闘うんだから休んどかないと駄目なんじゃ」
「そんなのお前が言えたことじゃないだろう」
「そう、だけど」
呆れたようなガイの表情に申し訳なくなる。言い訳をするつもりはないけれども、少しだけわかって欲しいだなんて思った。思っただけで、本当は気付いて欲しかったわけじゃないのだが。
ほら冷えただろう、と毛布を掛けられてありがとうと言えばたったそれだけのことにガイは嬉しそうに笑う。いつだってガイは少しのことで喜ぶ。ありがとうと言えば笑うし、いいことをすれば嬉しがるし、好きだと言えば少し照れてふにゃりと笑う。そういえば生きていてよかったと言ったあの時もガイはこれ以上ないってぐらい喜んだっけ、あの死を宣告された日に。ああ駄目だ卑屈になる。
不安になって、ホットミルクでも作ってくるからと部屋を出ようとするガイの背中に抱きつく。ごめん少しだけ。ん、わかった。腹に回した腕にガイの自分より暖かい手が重ねられる。顔を背中に埋めれば背骨の固さを感じ、ガイの匂いが鼻を擽る。それが心地よかった、失いたくないと思った。顔をさらに押しつける、どうしたんだよとガイは問う、ガイ不足なんだ、返せば何だよそれとガイは笑った。本当にガイ不足なんだ、だってこれからは触れれないんだろ触れないんだろ愛せないんだろ、この存在を。この作戦が終われば自分は二度と会えないんだろ、この形に体温に、なあ怖いんだ。逃げよう逃げよう逃げよう、一緒に(嘘だけど)
開け放たれた窓からさあっと砂の海が風に撫でられて舞う音がする。駄目だこれ以上は依存してしまう後悔してしまう、もういいよガイ、充電出来た。
ひくつく頬を叱咤して笑みを浮かべれば無理すんなとガイは手を頭に置いて撫でてくれた。
「大丈夫だよ、きっと上手くいくさ」
上手くいけばいい、そう最期まで上手くいけばいい。彼が自分の死に気付かないで彼の中で少しでも自分という存在が生きればいい。淋しいけれどそれでいい、それでいいんだ。
ガイの頬に手を添える、なあキスしていいか、問えば少しの沈黙の後いいよ、と返される。嗚呼よかった、それだけでも自分は幸せだ。

最期のキスをする。お別れはガイには言わない。



きみに、を告げたかった
(だけどそんな勇気僕にはないよ)

お題配布元(なれ吠ゆるか

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