02

□りんごのほっぺた
1ページ/1ページ

太陽が真上から照らしてるこの時間帯にいつも欠かさず行っているのは陛下の愛してやまないブウサギの散歩で。今日も例外はなくいつも通りの散歩コースを歩いていた。そよそよと優しく吹く風はとても気持ちいい。ブウサギ達も道を覚えたのだろう、最初こそはあちらこちらに向かってばらばらだったものが、今は全員が全員同じ方向にぶきぶきと鼻を鳴らしながら歩いていて、みていてとても癒される。(最初はまわりから奇異なものを見る目で見られてかなり恥ずかしかったのだが)
陛下程ではないが、自分も案外ブウサギに毒されているのではないかと思うと思わず苦笑してしまう。そんなことをいえばジェイドあたりがガイまでやめてください、と嫌がりそうだ。(ああ陛下は喜びそうだな)ブウサギの名前を全部間違えずに言えた時もそういえばジェイドは流石だとは言いながらも嫌な顔をしていたことを思い出す。陛下みたいにはならないでくださいよ、と言われて返事したのは自分なのに(ブウサギに関しては別かもしれない)
それにしてもいい天気だ。今日は洗濯物がよく乾く等とあまりにも主夫じみた事を考えていた。矢先に。
「あの」
「?はい、なんでしょうか」
自分よりいくらか背の低い少女が背後から声をかけたことに気づく。頬を朱色に染めおどおどしているその姿は可愛らしいもので、目線を合わせるように腰を下ろすとさらにその顔が赤くなった。(鈍いガイにはそんな変化はわかりもしないが)
あの、その、と一生懸命に言葉を紡ごうとしている彼女の言葉を待っているとすっ、と目の前に箱と手紙が出される。手紙に書かれている名前をみれば自分宛であることはよくわかって、俺にですか、と聞けば少女はこくん、と大きく頷いた。
「手紙、読んでくださいますか」
「ああ、もちろんさ」
そう言えば少女は花が飛ぶような可愛い顔ではにかんで見せたから余程嬉しかったのだと気づく。それでは、と行儀よくお辞儀して去っていく彼女が微笑ましくて手を振ってやるともう一度お辞儀をして突き当りの道を横に曲がって消えてしまった。
「手紙、ねぇ」
大方ラブレターなのであろう。自分も男であるから嬉しいことには変わりないのだがこれから城に帰ることを思うと少しだけ憂鬱になる。多分陛下もジェイドも自分をからかうのではないかということは安易に予測できて、小さく溜息を吐くとブウサギが足に鼻を擦り寄せてくる。はやく散歩の続きしようよ、と言っているかのようなその仕草が可愛らしくて数回頭を撫でてやって腰を上げると残りの散歩道を歩き出す。
(隠せるわけなんて、ないよな)



「おかえり、俺の可愛いジェイド達!」
一目散に駆けつけてきた陛下は勢いよくブウサギに抱きついた。この人はまた仕事をほったらかしてここまで来たのだろう(今の時間であれば謁見の間にいなくてはいけないのに)少し呆れながら陛下、と呼べば少しぐらいいいじゃないかと返された。まったくなにが少しなのだろう。ブウサギがぶぎっと小さく鳴けばそうかそうか、と頭を撫でる陛下の隣で彼らのリードを外してゆく。ぶき、ぶき、と時たま聞こえる嫌がっているような鳴き声に何事かと思えば陛下が頬ずりなんかしているものだから思わず苦笑してしまう。と、目に入ったのだろう、隣に置いていた先ほど少女から貰った小箱とラブレターを見てにんやりと笑ったものだからああ碌なことを言わないなと察した。(嫌な予感程あたるものだ)
「なんだガイラルディア、これか?」
そういって小指を上げる陛下にオヤジ臭いですと嫌な顔をすれば別にいいだろうと手紙だけを器用に取り上げる。中を見てもいいか、という質問によくないですよ、と言っても無視をされるだけで次の瞬間にはびりり、と封筒を開ける音がした。
「ほう、流石。もてるな」
「そんなことありませんよ。陛下の方がいろんな方から好かれてらっしゃるでしょう」
「殴ってもいいか」
機嫌の悪くなった陛下にわけがわからなくて首を傾げるとなんでもないさ、と彼はまた手紙に向き合う。ふんふん、と頷きながら一通り読み終えたのだろう、返された手紙に目を走らせると確かにそれはラブレターであって可愛らしい小さめの字で好きです、と書いてあった。
「これをジェイドが見たらと思うと恐ろしいな」
「そうですね、かなりからかわれる気がします」
「いや、そうじゃなくてだな、ジェイドが」
「私がなんなのです?」
げ、と声を上げて振り向いた陛下の先にはにっこりと笑ったジェイドが立っていてバッドタイミングと呟いた陛下の言葉に心の中で頷いた。嫌ですね、人を悪魔みたいに、等と冗談めかしに言うジェイドにお前は悪魔なんて可愛らしいものじゃない、と陛下が返す。相変わらずジェイドを恐れずにそんなこと言えるのは陛下ぐらいだな、と感心して、けれど逃げれないものかと辺りを見回した。(もちろん期待なんてしてないが)と、怖いもの知らずのブウサギ達が鼻を鳴らしながらジェイドの傍へ寄るものだからそれをいいことに、なんのことか言わないと焼いて食べますよ、と彼は洒落にもならないことをいいだした。
「俺の可愛いジェイドー!!!」
「煩いですよ、で、何なのですかへ・い・か」
またもやにっこりと笑うジェイドに陛下は実はな、と俺の方を見る。最初から逃げられるとは思ってなかったので背中の後ろに隠してたラブレターを前に出してやると陛下はそれを取り上げる。ガイラルディアがラブレターを貰ったんだ、と言えばぴくりと眉を動かしたジェイドが見せてくださいとそれを取り上げた。
「熱烈だろ」
「本当ですね」
「も、いいだろ旦那」
そろそろ返してくれ、と言う前に譜術が発動する。光ったと思った瞬間ぼう、と音を立ててジェイドの手にあった手紙は燃えてゆく。もちろん譜術なんかを唱えられるのはジェイドだけなので、なにしてんだ、と聞けば始末しただけですが、と返される。その笑顔が少し怖い。
「で、どんな方だったんです」
そう聞かれて、大人しめの可愛らしい少女だった、と答えるとそうですか、と返される。何かを考えるようなジェイドに少し疑問をもったがそれを遮るようにして陛下が名を呼ぶ。
「ガイラルディア!これあけてみろ」
差し出されたのは手紙と一緒に渡された小箱のことで、言われるがままにそれを開ければ小さいがしっかりとした音機関がそこに入っていて思わず歓喜の声を上げる。と、陛下は苦笑しながらよかったな、と頭を撫でる。
「お前の好きなものを知ってるとは、愛されてるなぁ」
「陛下、からかうのはよしてください」
「な、ジェイドもそう思うだろ」
にたり、と笑いながら陛下はジェイドをみやるから後を追うようにしてジェイドを見ると不機嫌ですと言わんばかりの顔がそこにあって吃驚する。
「おい、ジェイドどうし、「私ならもっといいものをあげれますよ」
「は?」
まさかの言葉に茫然としていると陛下が可笑しくて堪らないとでもいう様に腹を抱えて笑いだすものだから、どうしたのかわからなくて一人取り残される。下をみればブウサギ達が何かを感じ取ったのかすべて陛下の後ろへと隠れてく。とりあえず今のジェイドはやばいのかもしれないと思ってブウサギ達の方へと足を向けた瞬間。
「ガイ」
「は、え?」
ぐい、と手を引っ張られて扉に向かう。なんのことかわからなくてジェイドと陛下を交互に見合わせたのだが誰も教えてはくれず。嫉妬も大概にしろよ、と笑いながら叫ぶ陛下の声を最後に扉はしまった。
恐る恐るジェイドをみれば無表情で先を歩く。まだ手は放してもらえない。(放せというのも恐ろしい)すたすた、と歩くジェイドの名前を呼ぶのが精いっぱいで、何度目かの呼びかけの後、くるりとジェイドが振り向く。と、思いっきり引っ張られて体制が崩れた。気づけば目の前にはジェイドの胸板があって。とりあえずどうしたのか聞こうとして顔を上げるとジェイドの奇麗な顔が近づいて、あ、と思った時には唇が触れあった後だった。
「ジェイド!」
なにするんだよ、と叫べば小さな声で別に、と返される。むっとして胸ぐらを掴んだその瞬間、怒りを含んだような瞳が自分を射抜く。ガシャン、と音がしたのは多分、持っていた音機関が落ちてしまったからだろう。
「悪いですか」
「そんなのあた「嫉妬して悪いですか!」
「し、っと?」
唖然としていると頬に手を添えられてまたもキスされる。深いそのキスに戸惑わされて抵抗する暇もなく、漸く終わった頃には足の力が抜けおちてぺたんとその場に崩れてしまった。見上げると切羽詰まったようなジェイドの顔がそこにあって目があった瞬間、見られたくなかったのかジェイドは背中を向けて歩き出す。
「おい、ジェイド!」
どれだけ呼びかけてもジェイドは振り向かずそのまま足を進める。完全に見えなくなった時には自分の頬が熱いのを感じた。
「なんなんだよ、一体」
そういって唇に触れるとなんとなくジェイドを思い出して頭が沸騰するような感覚に追われる。一体どうしたのだろうか。焦って辺りを見回せば、落としてしまった音機関を見つける。めげることもなくそこにある音機関を手にとって、いつまでもここに居るわけにはいかないだろう、力の入らない足を無理やり立たせると陛下の部屋までの道を歩き始めた。
きっと自分は今手紙を渡してくれたあの子と同じ顔をしている。


「わけわかんないだろ、馬鹿旦那」
赤く染まった頬はどうしたら隠せるだろうか。



りんごのほっぺた
(意識しちゃうよ)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ