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□好きすぎて駄目になる
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嫌いなわけじゃないんだ(だけどどうしても駄目なんだよ!)



ぎしり、とベッドが悲鳴をあげると同時にガイはジェイドの肩を押し返した。
「やっぱ無理、駄目だ!」
「あなた、何度目だと思ってるんですか」
じと目で見つめてくるジェイドにガイは唸ることしかできなかった。

好きなんです、とジェイドがガイに伝えたのは丁度1か月ぐらいも前。突然の告白に呆気にとられるもその告白が嬉しくてたまらなくて自分も、とガイが伝えたのは同じくその日。互いが互いを必要としていたことが嬉しくて、ああこれで彼の傍にいることができるのだ、と喜んだのもお互い様で。はたからみればなんだこのバカップルとでも言われそうなぐらいに思い合って、それで今日に至る。
ベッドの上でうずくまるガイに仕方ありませんね、とジェイドはため息を吐く。それにびくびくと反応しながらすまない、とガイは謝った。

事はお互いの気持ちが通じ合った時から始まっていた。それは実に簡単でジェイドが所謂恋人がする行為を求めてきたという事だった。恋人同士がすることに多少の知識はあったものの実際にそれを起こす機会が21年間なかったガイにとってみればそれは非常に恥ずかしい事で、その度にガイはあれやらこれやら駄々をこねては逃げて来た。好きだからこそあなたとそういうことをしたいのだ、というジェイドの意見もわからなくはなかったが、しかしどうしてもそれをするには恥ずかしすぎて、そんなこんなしているうちに1か月という日々が流れたのである。
ジェイドも嫌がることは無理にしたいわけではなかったし、ガイの返事を待ちます、と言ってはいたものの、流石にここまでイエスの返事がないと不安になってしまうもので。ガイの髪を梳きながら私のことが嫌いですかと問えばすぐさまにそんなことはない、と返事が返された。(それに安心はするものの)
「それとこれとは別なんだ」
「別って、いい加減腹を括ってくれませんかね」
「うっ」
がしがしと困ったときに頭をかくのはガイの癖である。この一か月それを何度見たことだろうか。少し冗談でいつか禿げますよ、と言ってやれば縁起でもないこというな、とガイは怒った。
「俺は必死で考えているのに!」
「考えるものじゃありませんよ、これは本能ですから」
あなた若いのにもう枯れているんですかとからかえばさらに怒って、けれどもぼすり、とジェイドの胸に頭を埋める。悪い、と謝る彼に謝ることじゃありませんよ、と髪を梳いていた手を頭の上に置くとガイは少しだけ強く頭を押し付けた。

「なあ、あんたは恥ずかしくないのかい」
そう聞かれてジェイドは少しだけ悩んでけれども恥ずかしいというよりは欲しくてたまらないんですよ、とにっこりと笑った。その余裕が少しだけ羨ましくて、けれどもムカついて。軽く胸板を叩いてやったらくすくす、とジェイドは笑った。
「恥ずかしいっていうのも実に可愛らしい理由なんですが、私としてはそれぐらい我慢していただきたいですね」
「悪かったな、旦那と違って」
「おや、妬いてるんですか」
「まさか、別に妬いてなんかいないさ」
誤魔化すようにジェイドの髪を弄るとわかりましたよ、とジェイドもそれ以上はつっこまない。くるくると指に髪を巻きつけて解く、ガイはただそれを繰り返す。楽しいのか、と聞けば奇麗な髪だな、と噛み合わない会話が続くのがお互い可笑しくて堪らなくて。ガイの髪も奇麗ですよ、とジェイドは頭に顔を埋めた。



しばらくそうしていて、けれど気づけばかなりの時間が過ぎていたわけで。そろそろ寝ませんか、と問いかけるともう少しだけとガイは髪を弄る手を止めない。手際よく編まれるのは三つ編みで、あと少しで完成というところだった。普段であればやれやれと気のすむまでやらせてあげるのだが、何故だか今日はちょっと意地悪をしたくなっていきなりぎゅ、と抱きしめてみる。それに吃驚したのか、ジェイド、と問いかけてくる声を無視してガイの脇に手をかけて擽ると大げさなぐらいに体が跳ねた。
「ちょ、や、ジェイ、ど、くすぐったい」
「言うこと聞かない子にはお仕置きです」
ひーひー笑うガイの反応が面白くて調子に乗って止めるどころかもっと擽るとガイは必死に抵抗する。擽るジェイドの腕をつかもうと体を捻らせたり押し返そうと手を伸ばしたりして、けれどジェイドの方も簡単に捕まる気などなくそれを避けながら擽り続ける。もういい加減にしろ、と頑張ってジェイドの腕をなんとか掴んで押し返そうとして、けれどジェイドもガイの腕を放そうとしなかったものだから体制が崩れた。視界が揺れて気が付いたらジェイドの上にガイが覆いかぶさるようにして倒れこんでいて、思わずどけようとして目が合う。
「ガイ」
真剣なジェイドの瞳と頬に添えられた手に妙に意識がいって。どくんどくん、ともしかしたら伝わってるんじゃないかと思う程恥ずかしいぐらいに心臓がなって。近づいてくるジェイドの顔に目をつぶって、けれどもやっぱり押し返す。
「ほんと無理、ジェイド、無理」
「まったく、いくらなんでも傷つきますよ」
体を起こすのを諦めて(だって腰に手を添えられていたから)ガイはジェイドの胸に頬をあてる。うー、と唸るガイにそこまで行くともう病気の域ですよ、とからかうと以外にもそうかもしれない、と返された。
「だって」
「だって?なんなんです」
続きを強請るとちらりとジェイドを窺うガイににっこりとほほ笑み返す。とまた唸って今度は反対側の頬を胸にあててぼそりと呟いた。
「好きすぎるんだ」
(ああ、それは予想外です)
あんまりにも可愛いじゃないか。思わず笑うとガイが拗ねたように顔をあげたから逃がさないとでもいう様に首に手をまわして見つめあう。
「笑うなよ!」
「失礼、余計にしたくなりました」
「あんたなぁ」
ねぇいい加減させてください。そう問えば恥ずかしさからか、もう勝手にしてくれと頬を真っ赤にしてそう言うものだから。
「ガイ、好きですよ」
近づく唇は今度こそ拒否されることはなかった。



好きすぎて駄目になる
(キスひとつで臆病になるんだ)

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