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□恋みたいじゃないか!
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あれ?(どうしてこんなことになったんだ)




長い旅をしていると話題が途切れることがある。もちろん楽しい旅ではないのだし、そういうときは黙っているのが得策なのだろう。が、若い人(簡単にいうと子供)が集まってるこのメンバーではそんな選択権は無いに等しかった。
そして今日も最年少の少女の言葉が静まり返った宿屋の中に響いた。

「王様ゲームやろうよ!」
そう言って突き出された手には6本の棒が握られていて、おそらく用意周到な彼女のことだ。それぞれ数字と王様のマークが描かれているのだろう。それを見たルークは感嘆の声をあげてすぐさまアニスの持っているものに飛びつく。始めてみたからなのだろう。屋敷の中ではもちろん王様ゲームとかしたことなんてなく、必死でアニスにルールを聞いている。それが微笑ましくて見つめていると、暫くしてルールを理解したのか、すでに乗り気なルークが他の仲間を誘い始めた。
ナタリアは当然と言うように負けませんわよ、と宣戦布告して立ち上がり、ティアは旅の途中に不謹慎だとか小言をいっていたがなんだかんだいいながらも興味があったのだろう、立ち上がると一直線にアニスの傍にいって棒の模様を確認し始めた。
「ガイとジェイドもやるよな!」
さも当然というように誘ってきたルークの言葉に相槌をうって、アニスの周りに円になって座る。次いで隣に腰かけたジェイドはアニスとルークに聞こえるように「お子様の相手でもしますか」と皮肉めいていたから思わず苦笑してしまった。



(王様だーれだ?)



それからゲームは2時間も続いた。簡単なゲームでも案外楽しめるものである。簡単な命令から無理難題なことまで飛び交って、その命令に非難の声をあげたり簡単だと得意げになったり本当に楽しかったのだ。最初は皮肉めいていたジェイドも楽しげに命令したり(ものすごい非難の声があがったが)命令されたり微妙ながらも表情をころころ変化させていた。
気付けばもう深夜に近い時間になっていて(それまで本当にみんなゲームに集中していた)このパーティの中で保護者役を務めてる二人から「もう寝ましょう」とゲームを中止するように言われると、「あと一回だけ」とルークとアニスのふたりからおねだりが出た。ブーイングをとばす二人にため息交じりで、仕方ないあと一回だけですよ、とジェイドがそう言うと嬉しそうにすぐさま真ん中に置いてある棒に手を伸ばす。それを合図のように他の仲間たちが手を伸ばして棒を取り、それぞれ確認を始める。
「やりぃ、アニスちゃんが王様!」
最後のゲームはどうやらアニスが王様らしい。それに悔しそうにルークがぐーたれたが命令を聞いた瞬間誰もが固まった。
「3番が5番に告白ー!」
硬直からとけた瞬間(ジェイドだけは楽しそうに告白ーとアニスと騒いでいた)必死に皆が自分の番号を確認し始めた。
よかった俺じゃねぇ、とルークから安堵の声があがる。ほっと溜息をついたのはティア、私でもありませんわ、とナタリアも否定する。残ったのは二人。
「・・・俺と旦那かよ」
3番の札を真ん中へ返すガイに親友が「最悪だな」と同情の言葉をかけたのには誰もが共感した。
「ほら、ガイはやくー!」
はしゃぐアニスに急かされて仕方なくジェイドと向き合う。やらなくては終わらせないとその場の空気は物語っている。(最後のもがきとしてせめてアニスに命令の内容を変えてもらおうとちらりと横目で彼女を伺うとはやくやれとにっこりほほ笑まれた。)(つまり最初から逃げる道などなかったのだ)
仕方ないぱぱっと終わらせてしまおう、そう決心して命令を実行すべく口を開いた。




(それでどうなったんだっけ?)




傾れこむようにしてガイはベッドにダイブした。
あの後楽しそうにからかうアニスとルークをなんとか宥めて逃げるように予約していた宿屋の一室に戻ってきたガイは大きなため息をひとつベッドにうつ伏せた。
そこにはまだ同室であるジェイドの姿はなくて妙に安心した。

おかしいのだ。
ゲームだとはいえ、告白するのに緊張するのは極普通の人間の感情だ。確かに自分はおかしくなかった。がその後がどうも納得がいかない。
好きだ、と告げた後ものすごく恥ずかしくて、けれど同時にわけのわからない恐怖に駆られたのだ。そしてジェイドの答えを聞きたいような聞きたくないようなわけのわからない思いが胸の中を占めて、なんのいたずらか心臓がどくどくと激しく脈打ってるのに気づいた時にはそんな自分に動揺せざるをえなかった。
(おかしい、おかしいだろ普通)
ごろり、と寝返りをうって天井を見上げる。そういえばあの時、告白した自分の言葉のあと何かを言おうとしていたジェイドが脳裏を横切った。結局は仲間のひやかしによって何も言ってはいなかったのだがとても気になって忘れられない。
(そういえばジェイドもジェイドで驚いたような顔をしていたな)
もしかしたらあの告白を茶化そうと思って口を開いたんじゃないか、とも思ったのだが、なんとなくそれは違う気がした。それじゃあ驚く理由はどこにもない。
(あー、一体何なんだ!?)
またも寝返りをうって隣のベッドを見つめる。ジェイドはまだ戻ってこない。あの後ゲームを終えた時からまだ帰らないから大方どこかのバーにでもいって一人飲んでいるのかもしれない。
少し寂しい、と思ってはた、と気づく。そして飛び起きるようにしてベッドから立ち上がる。
「おいおいおい、それってまさか」




(おかしい)
部屋のドアの前でジェイドは真剣に考え込んでいた。部屋の中には多分ガイがいて、帰ってこない自分をいぶかしんでいるかもしれない。が、そんなことを気にしている場合ではなかった。
最初はなんて馬鹿な命令なんだろう、と実のところ馬鹿にしていたのだ。くだらないから早く終わらせようと思ってガイと向き合った。そして、いざガイが命令で自分に告白してきたときにおかしいと思った。
その告白が何故かものすごく嬉しかったのだ。
そして思わず口を開く。それは仲間によって遮られて伝えることはなかったのだが。
(何故だ、わからない)
何故自分は嬉しかったのだろうか、そして自分は何を言おうとしたのだろうか。
疑問ばかりが頭の中を占めていって必死に答えを探しても見つからない。
「これじゃまるで」




恋みたいじゃないか
(誰か違うといってくれ!)

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