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□みっつ数えたら教えてあげよう
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屋敷の中でしか居られないから気づいたらかくれんぼが得意になってた。
もちろん、ガイにはよくみつけられたりしたし、メイドにも兵士にも見つかって部屋に戻された時だってあった。
その度に悔しくて、何度も何度も隠れてはみつかって。
ああきっとこの屋敷で自分を知らない人間なんて誰一人いないから皆が鬼なんだ、なんて。
そう思うともっと上手に隠れようと思って、その思い通りどんどんとうまくなってだけど同時に切なくなって、ある日絶対に見つからない場所を探した。



(世界の広さなんてしらない、この屋敷の狭さもしらない
 けれど、自分の世界の大きさは一番知らない知らない)



暗くて狭くて冷たい。偶然見つけたその場所でひっそりと息をする。これならば暫くは絶対みつからない。
遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、それにどきどきする半面ほっとした。
誰が最初に自分を見つけるんだろう。それとも誰も自分をみつけないのだろうか。
こんなにうまく隠れたのは初めてだからもしかしたら今日中には見つけてもらえないかもしれない。
けれども、例え誰も自分のこと見つけられなくても大丈夫な自信もあった。
明日にはヴァン師匠が来てくれるから、きっと明日には絶対みつけてくれるなんて余裕の欠伸をひとつ。


(ああその前にガイが俺を見つけるのかなぁ)


わくわくして少しだけ身を乗り出す。廊下ではメイドが慌てて探してるのだろう、ばたばたと煩い音が響いていて、それが鳴りやむことはない。
その音になぜかにさらに安心して、ゆっくりと身を戻す。
まだまだ見つかる気なんてない。
このまま見つかったらお説教か、それか勉強が始まる。
そんな面倒くさいことなんておさらばしたい。
出来るならば自分の好きなように時を過ごせればいいのに。
ヴァン師匠が来てくれたら、(もしくはガイが仕事を早く終えてくれたら)ちゃんと出るのに。
退屈で退屈でしかたがないのだ。
スリルとわけのわからない感情が渦巻くこの時が今ではものすごく楽しくて。

ああ、この時が続けばいいのに。
それはきっと(必要とされていることへの満足感
冷たい壁が心地よく感じて目を閉じる。


(みつけないで だけどみつけて)



少しだけ寂しいんだ







気づいたら寝ていて、屋敷のいたる所には明かりが点いていて。
自分が明るいところにいることに疑問を持って体を動かすと、柔らかい感触が体を覆う。


「あぁ、ルーク起きたか」
「・・ガイ?俺・・・」

吃驚したんだぞ、なかなか見つからないから焦ったんだ、と困った風に笑うガイに状況が理解できなくて。
少しだけ首をかしげて、だけどちょっとわかって、悔しくて、少しだけ嬉しかった。
ガイが俺を見つけてベッドまで運んだのだとわかって不機嫌な顔をすると笑われた。

「ほら、これでも飲めって」

渡されたホットココアを少しだけ啜って、明日は隠れないでくれよ、というお願いに適当に相槌をうった。



(ほらこの気持ちはなんだろう)




みっつ数えたら教えてあげよう
(その感情の意味と名前を)

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