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□その歌だけは最後まで歌い終えて
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その音は唇から紡がれては消えていく。その様子を見て何度彼の姿を重ねただろう。
小さい頃子守唄として、時には泣きやむために歌ってくれていたそれは仲間である彼女の歌うものと全く同じで違うものだった。
未だ覚えてるその旋律を口ずさんでみれば隣にいたジェイドが意外そうな顔でこちらを見たから少し苦笑してしまい、歌はそこで途切れた。
「どうしたんですか、いきなり歌うから何事かと思いましたよ」
「たまには歌いたくなるってか。懐かしいんだよ」
そういえば特に驚かれることもなく、敵である彼に情けだけは掛けないで下さいと釘だけはさされた。もちろんそんなつもりはなかったし、けれども歌ってくれていた彼の姿は瞼に焼き付いていて、彼のいう情けとは違うものがこみ上げてるのは事実だった。
ティアがまだ歌うことのできない歌の先を自分は知っていて、彼女も聞いたことのあるだろうその歌をまた最初から歌い直す。
それは記憶に残ってる彼のものとは全く違うもののような気がしてまた苦笑にかき消されそうになったけれども。
「歌の意味をあなたは知っているんですか」
「さぁ、な。知っていても第七音素は扱えないし俺には意味はないけどさ」
「彼女に教えて差し上げては?」
「きっとヴァンのやつは教えたんじゃあないか」
それならばいいんですがね。その言葉に頷いて目を閉じる。真っ暗な視界は少しだけ寂しくて。
もう一度だけ聞いてみたかったな、と呟いてもう一度彼の姿を思い出した。
彼の歌声はもう聞こえない。
その歌だけは最後まで歌い終えて
(それはもう紡がれることのない旋律)