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□膝を抱えて泣いた。
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眠れない夜は広い世界の中で一人ぼっちになったような寂しさと不安
きっと君に電話したら出てくれるのにそれすら出来ない俺はいい子ぶりっ子
ねえ 君がよんでくれるって待ってる俺は酷く滑稽で笑えませんか
膝を抱えて泣いた。
眠りもしないで電気もつけずにただベッドの上でうずくまる。不安定な感情は眠ることさえも許しはしないでただ時計の音だけが静かな部屋を小さな音で満たした。
(案外駄目なもんなんだね)
勝手に恐怖感を感じて離れたのは自分。奥深くに眠る感情が君の瞳に見つけられそうで怖くて、彼に気づかれないうちに自分が気づいてしまう前に、離れてしまおうと距離を置いた。
そんな感情芽生えてしまえばもう後戻りなんて出来ないって何処かで分かってたからなのかもしれない。
その決断は案外簡単に行えたし、後悔もなにもない。
だけど多分もう遅かった。もう何日もなんともいえないもやもやは胸の辺りを締め付けてる。
(どうすればいいのかなんてわからない)
もやもやは何をしても晴れてはくれない。
同時に、自分が何を望んでるのかもわかってしまって更に自分を追い込んでしまう。
(駄目なんだよ、それは駄目なんだ)
考えれば軽い混乱を起こしてしまう。
そんな思いを無視するしか出来ない自分はあまりにも情けなく感じた。
途中バイブ音が部屋の中に響いた気がしたがそれは気のせいということにして。
長い間閉じていた目蓋を開ければ外はもう明るみを帯びていて、太陽の光で薄い紫と青の空はすぐに色を変えていく。
もう朝を迎えてしまっていたことがなんだか現実的過ぎて笑えなかった。
きっと何もなかったように日常は流れて、今日も彼には会わない、会うつもりもない。
窓を開けて朝の風をあびる。ふと目をやるとそこには自転車が二つ。
「え、なんで・・・」
自分のものではない自転車がひとつ。
(跡部君!!)
家の前の壁には見慣れた背中を預けるようにして立っている彼の姿があった。きっと間違いではない。あんなすごい人は日本にきっともういない。
(なんでなんでなんで)
軽くパニックになってる頭は急いで隠れることも考えられない。
運の悪いことに何かに気づいたかのように彼がゆっくりこちらを向いたから、心臓が止まったような錯覚が体を駆け巡った。
(きっともう後戻りなんて出来ないところまで俺は進んでる)
足は決意とかそんなもの関係なく玄関のドアの前まで進む。そんな自分にはっと気づいてドアノブを握る前にその手を放した。
(会いたい、声を聞きたい)
(でもここで踏ん張れば一時的な感情で終わらせれるんだ)
もう部屋に戻ってしまえと一歩だけ後ずさった。
ここで思いっきりドアが開くことがなければ引き返すことが出来たのに。
「なにぐだぐだやってんだ馬鹿が!!」
右手を思いっきりつかまれてその反動で倒れそうになった体は勢いよく彼の胸の中に受け止められる。ぎゅっと抱きしめられた体は心地よいけれども同時に矛盾が生まれた。
(違う、こんなの友達のやることじゃないよ)
冗談にしてしまわなくては多分逃げれない。
「なにー跡部君、しばらく会ってないから寂しかったとか?」
ふざけたように笑えばぺしんと頭を叩かれた。それでよかった。久しぶりに鼻を掠めた彼の匂いは変わりなく、安心と幸せと後悔が沸きあがって口元が歪んでしまいそうだったから。わざと痛がって下を向き、顔を見られるのを避けた。
「てめぇが電話にでねぇから!」
「あー・・・ごめん寝てた」
けらけら笑えば、頭上から小さな舌打ちが聞こえる。もう一度頭を叩かれてまたその手は俺の体に巻きついた。心臓はどうしようもないぐらい早鐘を打っていて、ばれそうで怖い。
ねぇそろそろ放してくれないか、と問えば案外簡単に放してくれて。寂しさを覚えそうになると同時に彼の右手が頬を掴んで上を向けられた。きっともうどうしようもないぐらいに顔が赤い。
見られたくなくて顔を背けようとしても痛いぐらいに右手に拘束されていてそれすら出来ない。どうしようもない、もう逃げれない。
悪あがきとでもいわんばかりに口を開く。先ほどからの沈黙がどうしても耐えれない。
(軽蔑されたんだろうなぁ)
肯定するかのように彼の目は氷のように冷たく俺を見ている。
「あの、さあとべく」
ん。
「・・・やっぱてめぇは馬鹿だ」
そういって右手が下ろされた。
熱を帯びたのは唇。数秒だけれども触れられたそこには今だ感触が残っていてじんじんと熱い。
「な、にこれ」
「自分で考えろ」
「いや、だから、いったいなに」
「逃げんじゃねぇ、引き返すな、進め」
ふい、と。
俺の質問には答えず、彼は俺に背中を向けて帰っていった。
俺は呆然とそれを見てるしか出来なかった。
何故彼は電話に出なかったからといってここまで来た。
逃げるな、とは一体なんのことなのか。
俺をみて軽蔑したんじゃないのだろうか。
さっきのあれはなんなのだろうか。
「・・・意味わかんないよ」
後悔は消えない。
それでも、微妙な確信は少しずつもやもやも決心も崩していく。
「なんだか眠いや」
ああ、どうか。
これが夢でしたなんてことはありませんように。
憂鬱の色をした朝の空は水色に染まったから、これが現実なのだと実感して遅い眠りについた。