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□もういいかい、まぁだだよ
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何も考えずに過ごすにはきっとあまりにも残酷で最悪な現実(だけど仕方ないんだ)




目の前がぼやけた。まただ、と思った時にはつうっと涙が頬を伝った。

何度考えてもこの足りない頭では答えが出ない。どうしたらいいのだろうか、なにをすればいいのだろうか、考えても考えても答えなど出るはずもなく、ただぽつん、と取り残されたようにそこに自分が居るだけで何も変わらなかった。その様はまるで数学のようだとひとりごちた。どれだけ式を立てようとしても自分の脳内回路では見事に答えにはたどり着けないところではその考えに納得してしまう。多分今はどんなに考えても追いかけっこのようにたどり着くことはないのかもしれない、一休みが必要なのだろうか。そう思って重たい腰を上げて窓の外をみればたくさんの星が輝いていて思わず口元が緩んでしまう。冷えた風が考えすぎて火照った頬を撫でるものだから思わず身震いしてさみぃと独り言がぽつりと零れ出る。
そういえばコレットから聞いたことがある。眠れない夜に空を見上げて星を数えるのがいいのだと教えてもらった、と。そのときはコレットのことで精一杯で考えがいたらなかったのだが、それをコレットに教えた彼ははたして眠れるのだろうか。天使という兵器は普通の生活を必要としないと言っていたからもしかしたら寝ていないのかもしれない。
(てことはクラトスも今この星をみてるのかなぁ)
この奇麗な星空をふたりでみれたらどれだけいいのだろう。寒いからって寄り添って奇麗だって笑ってくれたらどれだけ嬉しいことだろう。
気づいたら一休みのつもりなのにクラトスのことを考えている自分がいることに気がついて少しだけため息をついた。何故クラトスのことをこんなにも考えてしまうのだろうか。吐いた息は白い。

あの時、クラトスが自分の父親なのだと知ってそれを信じれない半面信じたくない自分に気がついた。確かに憧れやら先入観やらいろんなものが邪魔をしてその所為で受け止められないのだろうと軽く思っていた。が、だんだんと疑問が自分の中を渦巻く。本当にそれだけか、と誰かが聞いているような錯覚と日に日に募る認めてしまいたくない自分の葛藤にいつしかはまってしまって抜け出せなくなってしまっていた。
彼は父親なのだ、それも自分の。今更だと思う気持ちと、それとはまた違う気持ち(それがなんなのかはわからないけど)が相俟って訳がわからなくなる。クラトスのことは認めてる、わかってる。けれど彼が父親であるのは嫌だ。何を言ってるのだろうか、彼は敵でそれで父親なのだ。そんなのはわかっている。痛いほど。

(駄目だわかんねぇ)

ふと、珍しく考え込んでいて俯いていた自分を心配していた親友の言葉を思い出した。彼はそんな自分に酷く驚いたようで、けれど馬鹿にするように言葉をかけてきた。まるで病気みたいだ、と。
そうだ、もしかしたら病気なのかもしれない。こんなにもクラトスのことばかり考えて、尚且つ彼を父親だと認めたくないこの気持ちも思考も全部。そう思ったら少しだけ楽な気がして、だけども変わらずもやもやは胸を締め付ける。

こんこん、と誰かが自分の部屋をノックする音が聞こえた。どうぞ、と声をかけて扉が開くのを待つ。瞬間、後悔した。きぃ、と古びた扉の音がした瞬間姿を現したのはまさに意中の人。

「クラ、トス」
「すまない、見かけたのでつい、な」

どうして俺たちは敵同士だろ、とかいろんな言葉が喉まで出かかって、けれどそれよりも嬉しいという気持ちが湧き起こる。どうしてなのだろうか、嬉しいのだ。それが息子を思っての行動でなければ、だが。ぐるぐると思考がまた頭の中を渦巻いて話しかけてくるクラトスの言葉が聞こえない。頭が痛かった。
それをおかしいと思ったのだろう近寄って自分に触ろうとしたクラトスの手がなんだか嫌だった。
「・・・・るな」
「なんだ?」
「さわ、るなっ」
拒絶したらそうか、と手が引かれた。酷く罪悪感と嫌われたくないという気持ちが自分を責める。一体何なのだろうか。あまりにも自分勝手な頭に思わず舌打ちをすると目の前の身体がびくりと震えた気がした。
「なぁクラトス、わからないんだ」
問いかけると無言で聞く体制になったクラトスに気付いたから話し続ける。
「俺、クラトスが父親だってわかってるのにそれを信じたくないんだ」
「ロイド、それは」
「違うんだ、多分クラトスがいいたいことじゃないんだ。違う、認められないんじゃない」



「クラトスが父親だったら俺、どうしたらいいのかわかんないっ」



クラトスみたいなのが父親だったら誇りに思うけれど、クラトスが父親なのは駄目なのだ。とことん矛盾している。
独り言のようにぽつりぽつり、言葉が口から零れていく。なあなんでだと思う、そう問いかけるように顔をあげてクラトスを見る。その瞳には微かだが明らかに動揺の色が見て取れた。
「なぁ、クラトス俺どうしちまったんだ」
「ロイド、そ」
「なぁ、どうすればいいんだよっ」
やつあたりになのはわかっていた。それでも止められない自分がもどかしくてたまらない。一瞬息をつめてまた黙り込んだクラトスは自分からふい、と視線を逸らす。それがとても痛かった。
静寂にすまない、と声が響いたのはその少し後。相変わらず視線を交わらぬまま、クラトスは謝罪を続ける。
「すまない、今日は帰るとしよう」
その言葉に思わず違うんだ、と否定しようとしてやめる。それじゃただの我が儘と変わらない。少しだけ震える手をぐっと握り締めて肯定の言葉を吐く。これ以上彼を困らせたいわけじゃなかった。暫くまた静寂が続いてクラトスは身を翻しドアノブに手を伸ばして止まる。
「ロイド」
「なんだよ」
問えばクラトスは一度あけた口を閉じて、だけどすぐにまた開けて一言だけ告げた。
「・・・間違えるなよ」
それがなんのことなのか自分にはわからなかった。だが、クラトスには自分の疑問の答えがわかっていることだけは確かだった。ぱたん、と閉じられた扉の向こうにクラトスは消えた。
「ちくしょう」
わかんねぇ、とまた一人呟いてカーテンを思いっきり閉めた。何故だか今はとても外に自分を見られるのが嫌な気がした。



(もういいかい、まぁだだよ)
なぁ誰か教えてくれこの答えの行く先を!

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