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□風邪薬ときみとぼく
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「あれ、あそこにいるのひばりさんじゃない?」
そういってツナが見つめた方向にいたのは確かにその人だった。黒い髪を靡かせて真っ直ぐ廊下を歩いている。
視線を正せて歩いているその姿はいつみても綺麗で、だから他人に余計恐怖を与えているのだろうと思った。
そんな雲雀の足先はこちらに向かっていて、何か気に食わないことがあったんだろうな、と他人事のように思った。
(きっと獄寺に対してか、群れるな、ということだと思う)
だから、
「わ、こっちにくるよ」
怯えた声でツナがそういったが、頭の中ではなんて声を掛けようか悩んでいた。
相手が女性なら今日の髪形素敵だね、とか歯の浮くような台詞を持ちかければいいのだろうが(生憎そんな言葉を使ったことはない。この間ディーノさんとイタリアに行ったときに彼が使っていたのだ。)何せ雲雀は男だし、と、じっと見つめているといつもと少し違うことに気が付いた。
いつもより歩く早さが遅くは無いだろうか。
顔が少し下を向いてはいないだろうか。
足元が少しふらついてはいないだろうか。、
なんとなくそんな疑問が浮かんできて、それらに対しての答えが浮かんだとき、丁度雲雀が目の前で足を止めた。
「君達、群れな「ひばり、お前どっか悪いんじゃないのか!」
雲雀は言葉を遮られたことでピクリと眉間にしわを寄せていたが俺にとってはそれどころではなかった。
急いで雲雀の腕を掴んで保健室まで連れ去るという行動に出た。
「山本ぉ!」
後ろでツナが俺のことを呼んだ気がしたが、とりあえず気のせいということにしてただ走る。(だって今は雲雀が先だ)
「失礼します!!」
がっしゃーん、とでも鳴りそうなほどに思いっきりドアを開けて先生の許可なしに雲雀を奥のベットに座らせた。
何事だ、と保健医は吃驚していたが雲雀と俺の姿を見るなりなんだ、と思いっ切り椅子にもたれ掛かった。
「男連れてくんなって」
つれてくんなら女の子をつれてこい、モテ男、といわれたがすっぱり無視をして手を目の前に差し出した。まずは体温計だ。
「体温計貸してくんね?」
「いや、男に貸すものなんてないから」
嫌そうにそう返されたので仕方なしに勝手に拝借しようとすると、どうしても嫌なのか、先生との攻防戦が始まって。
その隙に雲雀が保健室から出ようとドアに手を掛けていた。
「ひばり、ストーップ!!」
「・・・煩い」
雲雀の腕を掴んでこちらを向かせると、雲雀が明らかに不機嫌な顔をしてこちらを睨んできた。しかしそんなことで怯む俺じゃない。
「いいから、ひばりはそこに座ってて」
「その前に、俺の許可取れよ少年」
もう呆れてしまったのだろう、先生は椅子から腰を上げて雲雀の前に立ち様子を確認していた。
「ただの風邪だが、ったく無茶しやがって」
放置してるからこんなことになるんだと、更に顔を呆れさせていた。
その言葉を聴いて、ああ、やっぱりここに連れてきて正解だったのだと知って俺は少しだけほっとした。
しばらくすると、もう勝手に使えと保健医はドアを開けたので。
間際に、「どこいくんだ?」と聞いたら、
「暴れん坊主がいると女の子達がこないから出張サービスだ」と足早々と去っていった。
これで保健室には俺と雲雀だけ。緊張が走る。
「山本」
名前を呼ばれて雲雀を見れば、熱のせいで潤んでいる瞳がこちらを窺っていた。
「どした?」
「怒ってるの?」
何のことかわからないで、間抜けな顔をしていると、雲雀が「ここへ来るとき君すっごく必死な顔をしてたから」とだけ告げて顔の半分を布団の中に隠した。
「別に怒ってないって」
「・・・そう」
「ただすっげぇ不安にはなったけど」
未だに不安なんだぜ、と言うと、雲雀はまたそう、とだけいって瞳を閉じた。
「ひばり、寝る?」
「うん」
「じゃあ、おやすみ」
安心できるようにぽんっと布団の上に手を置いた。風邪のときは寝るのが一番体にいい。
そう思っているといつもより暖かい手が俺のその手をぐいっと引っ張った。
「ひばり?」
もしかしたら喉が渇いたのではないだろうか。水を取りに席を立とうとすると、か弱いながらも強く握られて先ほどの考えが間違っていることがわかった。
雲雀は何か言いたそうに先ほど閉じたはずの瞳で見ていた。
「ひばり、どした?」
「・・・・」
「ひばり?」
「・・・・・て」
「うん?」
「・・・いっしょに寝て」
ああ、そういうことか。
熱のせいだけではないだろう赤い顔がこちらを見つめているのがものすごく可愛くて。雲雀の空けてくれた人一人分のスペースにすばやく俺も体を埋めた。
それを確認すると雲雀は嬉しそうに口元を緩めたから、こんどこそおやすみと熱っぽい唇にキスをして目を閉じた。
目が覚めたときに少しでも熱が下がっていればいい。
「あれ、シャマル。なんでここにいるの」
ツナは何故か教室の前で中の様子を窺っている彼に疑問を感じて声をかけると、嫌そうな顔で彼はこちらを向いた。
「保健室が訳あって入りたくなくてな」
「なんでまた」
女人のみ歓迎の彼の保健室がどうして入りたくないものになりえようか。
しかし、ここまで顔を歪める彼をみれば、よほど彼の好みじゃない女子でもやってきたのかもしれない。
そう納得してツナは先ほどから探してる友人のことを聞いてみる事にした。
「あのさ、山本知らない?」
そう聞くと、勢いよく肩をつかまれて少しだけ揺さぶられた。
「お前、あいつどうにかしろ」
「はい?」
「保健室で勝手にいちゃこらしてるんだ!」
水いるか?とかつらくないか?とかなにかいらないか?とか、仕舞いには俺がついてるからな、なんて一々煩くてたまんないと吐き捨てた。
「あいつらのせいでかわい子ちゃんは一切寄ってこないし、もういい加減にしてくれ、だ!」
「は、はは・・・」
「・・・何やってるんすかね、あいつは」
獄寺君のその言葉に激しく同意して、ああ彼もトラブルメーカなのかもしれないと、シャマルと共にため息を吐くしか出来なかった。