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□僕らは約束に縛られる
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約束らしい約束なんてしてないけど、けど。
俺の中でのあの人との約束を今日破ってしまった。
それがとてもつらい。





いつもなら、応接室にてヒバリは書類と格闘してるのに今日はその姿を見る事ができなかった。
それは大会前、野球が忙しいからで。

けれどもどんなことがあってもヒバリに毎日会うということは俺の中でのスケジュールだったし、なにより俺のヒバリへの約束でもあった。
(ヒバリにいったら「そんなふざけた事いうな」って怒られたけど)

いつもこの時期は忙しくなるが、それでも毎日欠かさずヒバリに会いに行ってたのに。
今日だけは駄目だった。
お昼休みはミーティングで潰れて、放課後は最終下校時刻を過ぎても練習をやめることはなかった。



練習を終えた後、いそいで学校のなかに入ろうとしたが応接室の鍵なんてもうとっくに閉められていた。

そりゃそうだろう。
学校の校則をなにより重んじるあの人が最終下校時刻になっても帰らないなんてことはあるはずが無い。

外では先生がはやく帰れよーと生徒に声をかけている。
仕方が無いので急いで、だけど少しだけ留まりたい思いをしながら廊下を走った。




約束を破った。

あの人の家に会いに行けばいいとも考えたが、生憎住んでいるところなんて知らない。
もう約束を守る方法などひとつもなかった。

約束は破るためにあるという人もいるが自分にとってはもちろん、約束は守るためにあるものである。
だからこそ、今日のこの出来事はものすごく誰に対してかわからない罪悪感に心が覆われていた。

ごめん。
頭の中でそれしか言えなかった。








「って、なんでヒバリがここにいんの!?」

俺の家の前で俺の事を待っていたのは紛れも無く約束をした相手であるヒバリだった。
なんでここにいるのだろうか。
ヒバリが俺の家にやってくるなんてことはもちろん初めてだし、ヒバリのほうから会いに来るという事自体が奇跡同然だった。

そんな俺の言葉が何か癇に障ったのだろうか、ヒバリは眉間にしわを寄せるとその場を去るように俺の隣をすれ違った。


「ちょっ、ヒバリ!!」

腕を掴めばやはり機嫌の悪そうな顔でヒバリは振り向いた。
そして、その薄い唇は言葉を紡いだ。


「君のくだらない約束に付き合ってあげただけ。それじゃ」

そういってヒバリは俺の腕を振りほどいた。
捕まえようとまた手を伸ばしたけど、すぐ傍にあったバイクにのられたはそんなことは出来るはずも無く。

去っていくヒバリに少しだけぽかんと口を開けたけど、やはりすぐに笑みに変わった。



「なんだ、覚えてくれてたのな」

くだらないといったのはヒバリだったのに。
けれども、あの人のおかげで軽くなった胸はもう踊りそうなぐらいだ。





とりあえず破れそうだった約束は、また息を吹き返したのである。

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