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□彼女の答えを教えて下さい
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(それが愛なのか恋なのか)
問われたらどう答えるのだろう。





ぎしり、とソファがたてた音にはっ、となる。眠っていたらしい。重たげな瞼をこすって視線を少し横にずらすと苦笑を浮かべた男と目があう。と、すっと手がこちらに向かって伸ばされた。

「すいません、起こしてしまいましたか」

さらり、と髪を撫でる手が心地よくて目を細めると狙ったかのように唇が降ってくる。ちゅ、ちゅ、と数回軽いキスをした後、変わって深くなったそのキスを受け止める。
満足するまで味わったのだろうか、離れた唇を追いかけるように漸く目を開けると目の前には確信犯のしてやったといわんばかりの顔があったから、ああはめられたのだと気づく。

「もっとしてほしかったんですか?」
「意地が悪いな、あんたは」

くすくす、と楽しそうに笑うジェイドに不満を顔に露わにして視線をそらす。と、さらに笑われたからむかついてのしかかってくる胸板を押し返そうと躍起になっていると手首をつかまれる。それがあまりにも優しく握るものだから視線をそらしたまま黙りこくるしかできなかった。

「すいません、からかいすぎました」
「よくいうよ、全然そんなこと思ってないんだろ」
「ええ、そうですね。可愛い寝顔でしたのでちょっと悪戯心が」

最悪だ、と言うと光栄ですといわんばかりにまたキスをしてきたものだから、怒りを通り越して呆れるしか出来なかった。ああ、やっぱり喰えない男なのだ、この人は。
寝起きで乾いた喉を潤そうとテーブルの上のカップに手を伸ばして、読みかけの本に目がいく。洋書のようなその本はもちろん自分が読んでいた本ではなく、では彼が読んでいたのだと思考がいくのは早い。が、あまりにもミスマッチすぎて思わず嘘だ、と思考が否定した。
ガイがそんなことを思っているのもお構いなしに視線の先を読み取ったのかジェイドはその本に手を伸ばしてしおりの挟んであるページを開く。ぱらぱら、と本特有の音がほんの少しだけなって奇麗に本は開かれた。
怪訝そうにじっとみつめると、案外面白いんですよ、と言うものだから間違いなく彼の本なのだろう。はっきりいって可笑しい。思わず笑うと失礼ですね、と非難の声が上がったから一応素直に謝った。

「私だってたまには洋書ぐらい読みますよ」

そういって視線を本にずらすものだからガイも視線を本にやる。分厚い表紙に書かれた題名に以外にも自分も知っている本なのだと気づいてその内容を思い返す。


(ある一人の小鳥が人間の男に恋をして小鳥は一生懸命に考えた。ある日男が夜に空を見上げていることから男は星を好きなのだと小鳥は気づく。そして毎日男の好きな星になりたいと神様にお願いをするがその願いが叶うはずもなく時は流れて。仕方なく小鳥は毎日男に気付いてもらえるように大空を飛びまわった。
ある日寿命がきてしんでしまった小鳥は生まれ変わる際に神様に「何に生まれ変わりたい」と質問を受けるとすぐさま「お星さまになりたい」のだとお願いする。
その後、たくさんの星空のなか特別輝いているわけでもない小鳥の星を男はみつける。今にも消えてしまいそうなその星を男は毎日のようにみつめた。
男は死した後、神様の質問に幸せそうに「星になりたい」と告げた。そして小鳥の隣で消えるときまでずっと輝き続けた。)

小さい頃姉上に読み聞かされていたその物語は幼かった自分にはハッピーエンドなのかはわからなかったけど、ああ小鳥は幸せなのだと感じ取った。姉上はこの本が大好きだった。
だからこそ飽きるぐらいに姉上に読み聞かされては聞かれたのだ。

『男はなんで星になったのだと思う』と。

わからなくて答えを求めても教えてもらうことはできなかった。ヴァンにもペールにも聞いてみたのだが二人は同じ答えしかくれなかったことも覚えている。
「いつかあなたにも解る日が来るでしょう」
その答えにふてくされて批判の声をあげると笑われたものも懐かしい話だった。

思い出に浸っていると読み終えたのだろう、ぱたんと音をたてて閉じられた本はテーブルの上に戻された。
どうだった、と問えばなかなかだったと感想が告げられる。と同時にあの疑問がこみ上げてくる。

(ジェイドだったらどう答えるのだろうか)

今となっては自分の中では二つの答えが出ていた。あの物語の男はきっと小鳥と同じ気持ちだったのだ。けれどそれがどちらなのかはわからない。
テーブルの上の本をとんとん、と指でつついてジェイドに質問する。
それは姉上が自分によく問いかけていたそれと同じ。


「何故男は星になったと思う」

わかるか、と問えば微笑まれる。同時にすっと抱きしめられて、耳元で囁かれた質問の答えに思わず笑った。





「愛していたからでしょう」

即答されたその答えにああやっぱりと思ったのは(秘密にしておこう)



きっと恋に似て違うもの

(それは多分愛なんだ)

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