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□子守唄より優しい矛盾
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白い月が地上を照らすその様を誰が神聖だと例えたのであろうか。残酷なまでに明るいそれは今も薄く影を作っている。




焚き火がぱちぱちと音を鳴らして燃える、それを子守唄のようにして若い仲間たちはすやすやと眠りについていた。警戒心が減ってきているのだろうか、それとも段々と疲れが溜まってきているのであろうか。深い仲間の眠りに微笑ましい反面、自分が気を抜いては駄目なのだと叱咤する。
今夜仲間の命を預かる身としては、一瞬の隙さえも許されないし、許すつもりもない。
とりあえず辺りを見回してまた腕の中の刀に視線を落とした。

「旦那はまだ眠らないのかい」

視線を刀からずらすわけでもなく、ぽつりと声をかけた。たったひとり交替の時間でもないのにジェイドだけは未だに起きていてぼう、と仲間の寝姿を眺めている。それがいやに不思議な光景に思えた。
聞こえていたのだろうか、気になって顔をあげると、視線がぶつかった。赤い瞳はこちらをちゃんととらえていたから、ああ聞こえていたのだと気づく。

「あなた一人では寂しいだろうと思いましてね、暫くはお付き合いいたしますよ」

にっこりと喰えない笑みを浮かべてそう言ったジェイドの表情からは何も読めなくて、ただ苦笑するしか出来なかった。





ごろり、とルークが寝返りをうつ。それを内心笑いながら毛布をかけ直すと、安心したようなルークの顔に何かがざわめいた。けれどもすぐに気付かない振りをして誤魔化す。
ルークはまだまだ子供ですね、と掛けられた言葉に、まぁ手間がかかる方が可愛げがある、とだけ返しておいた。
毛布から少しだけ覗く健康的な手首は月と炎に照らされて揺らめいて酷く不安定なものに見えた。その手首を一撫でして頭に軽く手の平を乗せる。
毛布によって少し暖められた皮膚がちょうど心地よかった。



「寝れるようにはなりましたか」

突然の質問に一瞬息が詰まったが、「なんのことだい」と適当にはぐらかす。もちろんうまくいくわけなんてないとはわかってはいたけれども。

「誤魔化しても無駄ですよ、あなたいつも寝た振りしてたでしょう」
「・・・そういう旦那こそ、ちゃんと寝てるのかい」
「軍人ですから、気配を読みながら寝るのは簡単ですし、なんともありません」

ならいいんだけどな、と笑えばすっと腕が伸びて体を包む。ジェイドに抱きしめられたのだと瞬時に悟った。

「思い出してから、でしょうか」

聞かれた言葉に返事は出来なかった。





それは残酷な夢だった。
いくつもの赤い腕が自分を飲み込むように伸ばされ抱きしめられる。
生暖かい液体と服に染み込む赤、反比例に冷たくなる温度、青くなる唇。
それはいくつも重く圧し掛かり、耳元で呟く。

「        」

その瞳を未だ忘れない。忘れられない。






「もう寝なさい」
交替の時間です、と頬を撫でられる。その優しさに驚いて顔を上げるといつもどおりのジェイドの顔がそこにあった。
寝れないのだろう、と聞いたその唇が寝なさいと言ったその矛盾が可笑しくて、ジェイドの胸に顔を押しつけるように顔を埋めた。



「もう少し、もう少しだけこのまま」

いいだろ、と聞けば好きなだけ、と触れられた掌の冷たさが彼らしくてまた可笑しかった。





( その唇が零すその優しさに包まれて眠れればいいのに )




眠れない子供に唄う子守唄より優しい矛盾

( ああ悪夢が壊れる音がした )

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