TEXT01

□大切
1ページ/1ページ


大切にしていた一羽の鳥が死んだ。
いくら大切にしていても無くなるときはくるもので。

ただその屍骸を掌に乗せたままぼおっとしてた。







「千石、どうしたんだ?」

いつものように氷帝の校門に来たのはいいけど、いつものように笑うことが出来なくて跡部君に驚かれた。

「ううん、なんでもないよ」

はやく帰ろう?そういって跡部くんの背中を押した。






「千石」
「え、なに?」

跡部くんに名前を呼ばれて、気づいたら知らない住宅街に迷い込んでいた。

「ごめっ、跡部くん」
「―たく、何があったんだ?」

焦って謝る俺を跡部くんは落ち着かせるように抱きしめた。ぽんぽん、と心地よいリズムで背中を撫でてくれる。



「なんにも、ない、よ」
「嘘吐け、お前、今日全然笑ってない」

どうしたんだ、と聞いてくる跡部くんの優しさが今はものすごく苦しくて、自然に涙があふれた。






「・・・鳥がね、死んだんだ」
「―ああ、あの部屋にいた鳥か。・・・残念だったな」

大切にしていたのにな、と今度は頭を撫でてくれた。



「―――俺、ね、跡部くんも大切なんだ」
「ああ」
「だから、跡部くんも消えちゃいそうな気がして
 もしかしたら、跡部くんまでいなくなるって思って」

もしかしたら、じゃないことぐらいわかっている。
跡部くんには将来があって、その将来、傍にいるのは俺じゃないことぐらいわかってる。

もしいれたとしても、命あるものはいつかは消えるし、置いていかれないなんて考えてるほうが可笑しいのもわかってる。




今という時間が幸せすぎて、錯覚を起こしていたんだ。






「大丈夫だ、泣くな」
「・・・・うん」
「俺はずっと傍にいる」


その言葉が嘘だってわかっていた。跡部くんだって将来を捨てれるほど大人じゃない。



だけど
せめて―――今だけはその言葉に頼らせて。傍にいさせて。




離れたくない、放したくない
大切なあなたとの限られた時間を。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ