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□太陽と掌
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「やっぱり遠いよねぇ」
「あぁん?」
隣で千石が窓に向かって手を伸ばしていた。
窓にはやはり何もなくて、その可笑しな行動をじっと見ていたが千石はため息を吐いてその手を下ろした。
「やっぱり遠い」
「何がだ?」
窓との距離なんか歩いてしまえばすぐに消えてしまう。ということはそれ以外なのだろうが、俺にはわからない。
千石のくせっ毛を指に絡ませながら頭を撫でてやると、千石はふにゃりとこっちを向いて笑った。
「太陽だよ」
「・・・当たり前だろうが」
太陽なんて遠いに決まってる。少しあきれていると、胸元に千石の頭が寄せられる。
「俺さ、昼とか大好きだけど、ちょっとだけ嫌い」
「?なんでだ」
「だって堂々と出来ないじゃん」
そういうと千石は頬を摺り寄せてぎゅっと俺のシャツを少しだけ握った。
「太陽が照らしてくるから、外でいちゃいちゃ出来ないもん」
なるほど、と思った。
夜なら暗いから外を歩いていても見つかりにくい為、手を繋いでいても変な目で見られることはない。
だが昼なら都合が違う。男同士が手を繋いでいるところなんか見たら四方から変な目で見られるのは当たり前だ。
いくら男同士で付き合ってるとはいえ、世間体を気にしないなんて事はない。
「いくら手を伸ばしても太陽なんて退かせないしさ・・・」
「お前の手だと余計にな」
「む・・・」
千石の俺より小さな掌が太陽を覆い隠せるはずもなく。太陽は今日も外を照らしていた。
「でも、でもさ・・・」
寂しそうな声を出す千石の背中を擦る。不安そうに先ほどよりも服を握る力が強くなっていた。
「ばーか」
だからこそ馬鹿だと思った。口にしたその言葉の意味がわからなかったのか、千石は首をかしげて見上げてくる。
「太陽なんてのはな」
千石をソファーに座らせて窓際まで静かに歩み寄る。
「こうすりゃ消えるんだよ」
そして思いっきりカーテンを閉めた。太陽の光を失った部屋はやはり暗いけれども、千石の表情だけはたやすくわかった。
「安心しろ、その内こんな国変えてやる」
「跡部くんがいうと本当にしちゃいそうだね」
「そう、じゃねぇ、変えるんだよ」
「あはは」
やっと笑った千石を抱き締めてそのままソファーに倒れこんだ。
「でもせめて、
今だけは泣かせてね」
そういって抱き返してきた千石をただ離さないと先ほどよりも確かに腕の中に閉じ込めた。