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□曇る窓
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「待ってろ」
そういわれてからもうどれくらい待ったかといえば軽く一時間はすぎもう後5分で二時間は過ぎようとしている。
「先に帰ってろ」というメールは無視をした。
唐突に。先生に呼び出された跡部君はそういって走っていってしまった。
すぐに帰ってくるだろうと思っていたので最初のうちは校門あたりでうろちょろしていたのだが風が強くこんな季節だから肌に触れるその風は冷たく痛い。
あまりにも外は寒いのでメールで「部室で待ってるからね」と送って許可をもらう前にさっさと部室にお邪魔した。さすがにずっと我慢して風邪を引いてしまっては彼に申し訳ないし、しばらく彼に会えないというのはつらい。
とはいっても部員たちは外で熱心に部活をしていて部室の中には誰もいなく、そのためか暖房はついていなかった。
部屋の温度は外と同じく低く風邪しのぎにしかならないが、まぁそれは俺はよそ者だし我慢せざるを得ないので仕方なしにそこらへんにあった窓の傍にあった椅子に座った。
そして冒頭に戻る。
寒さで顔を赤らめるように窓は白く染まっていた。それが寒い中一緒に待ってくれているようなそんな気さえした。
その白にそっと触れるとそこだけが外を映し出した。すすっとその指を下に滑らして文字を書く。
彼が来るまでの退屈しのぎとしていくつもいくつも窓の白さが許すまで書き続けた。
「……寝てんのかよ」
結局跡部が千石のところに戻ってこれるまでに三時間も要した。
先生との長い話し合いが終わりその間に届けられていたのだろうメールを見て、待ち合わせ場所に行ってみれば千石は部室で寝ていた。
ただ千石が起きていたその時間と違うのはあたりが暗くなったことと部屋に明かりがついていたことと、暖房が入っていたこと。
多分部員の誰かが千石に気遣って暖房を点けっぱなしにしてくれたのだろう。部員たちは部活終了時間が過ぎているからもう帰った後だった。
ふと窓に目をやると部屋の暖かさのためか所々水滴になっていてよくわからないのだがひとつだけまともに読める絵と文字に思わず笑った。
大きな傘の下に千石の名前と空白。
その空白に指を動かした。
そんな馬鹿らしいことさえも暖かく感じた。
曇った窓と相合傘。
(ねぇ、水滴なんかに負けないで)