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□知らんぷり出来ない
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重症だ。
どれくらい重症かというと『味噌汁の中のわかめを見るたびにときめいてしまう』ぐらいに重症だ。
まあ結局は食べ物である限り残さず食べるのだけれども。
こんなにも意識してしまう自分がとてもとても。
自分じゃないみたいでむかつく。
知らんぷり出来ない
真っ赤な夕焼けに溶けてしまえばあの後輩に見つからないで帰れるのだろうか。
こそこそとするのは性に合わないから(そもそも何にも俺は悪くないわけだし)堂々と校門を抜けようとすると、いつもと同じく自分の名前を呼ぶ赤也の声が聞こえてくる。
そんでもって、そこで一旦立ち止まって後輩を待つのも日課になってしまっていた。
「丸井先輩、置いてかないでくださいよ」
「誰も一緒に帰ろうなんて一言も言ってねぇだろ」
「いやいや、もうこれは暗黙の了解ってやつじゃないっすか」
「は」
「恋人同士は一緒に歩いて帰るのは当たり前っしょ」
そういっていたずらに笑う赤也に少しだけ落ち着かなくて、下を向いたら急いで手を捕まれた。
手を繋いで歩くのも何故か当たり前になりつつある。
以前、何故手を繋ぐのかと聞いたところ、どうやら幸村君から色々と聞いたらしく
(それは小さいころお菓子に釣られて危ない目に遭いそうになったとか、迷子になったとかそんな話)
ふざけた様に「はぐれないでくださいよ」と返されたことを今だ覚えてる。
今更迷子なんてしないって怒ってやろうと思ったが、少しだけ汗ばんでいた赤也の掌でただ手を繋ぎたいだけだったのだと気づいた。
だから今までは黙って赤也の好きにさせていたけれども。
(よくよく考えるとこれってものすごく恥ずかしいんじゃね?)
意識してしまうと何だか顔が焼けてるんじゃないかってぐらい熱くなって、だけど気づかれたくなかったからそっぽを向いてやり過ごそうとした。
幸い赤也は自分の数歩先引っ張るように歩いてくれていたからなんとか気づかれずに、黙々と歩き続けたのである。
(だって見つかればもっと恥ずかしくなるってわかってる)
(話題だって振ったところでいきなり振り向かれても困る)
(忘れろ忘れろ。平常心平常心。)
夕焼けはいつもより赤めに空を染めていて、まぶしいような切ないような、そんな色にただぼんやりと足を動かす。
(そういえば、赤也は夕焼けが綺麗な時に生まれたから赤也って名前なんだっけ)
ふとそんな考えが頭に浮かんで、冷めかけてた熱がまた頬を火照らしてしまいそうになった時。
勢いよく振り向いた赤也が思いついたように口を開いた。
「丸井先輩の髪って夕焼けみたいで綺麗っすよね」
そういって触れられた髪の毛ひとつひとつが赤也に触れられてると異常に反応して、神経が繋がっているのではないだろうかと錯覚を起こしてしまった。
きっともう赤いこの頬は隠せない。
本当に夕焼けに溶けてしまえたら。
だけどもうすでに溶けてしまったかのように体が動かない、声が出ない。
(なんでこんなにも意識しちまうんだよ)
もしかしたら自分は。
この夕焼けに包まれているようにもう逃れれないぐらい染まってしまっているのだろうか。
(・・・まじで勘弁しろぃ)
ならばきっとそう。夕焼け色に染められて。
知らんぷりなんてもう出来ない。