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□きみとブランコ
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月に照らされてゆらゆらとゆれているブランコにそっと座った。
誰も知らないところで揺れているなんてまるで俺みたいだなんて、一人で笑って一人で泣いた。






跡部君とは数ヶ月前からお付き合いをしている。
告白は俺からで、いいとはいわれたものの好きだなんて一言も言われたことなんてない。

そんなこんなな状況でも跡部君が大好きで仕方がない馬鹿な俺は毎日のように跡部君の帰りを待って、跡部君と一緒に帰る。
たったそれだけでも嬉しかった。

嬉しかったのに。




そんな風に思っていられなくなったのは、いつも通り跡部君を家まで送って帰ったその夜。
いつもはバラエティばかり見てるから、たまには違うのを見ようと思ってリモコンのボタンを適当に押した。

それがいけなかった。


テレビにはいろんな困難を乗り越えて勝ち取った愛に喜ぶ彼女の姿。
クールそうな彼が彼女の耳元で囁いた愛の言葉。
幸せだと言わんばかりの笑顔と、ハッピーエンドを知らせるキス。

全てが羨ましく思えて、吐き気がして、急いでテレビを消して家を飛び出た。





ブランコに乗りながらぼんやりと月を眺めた。
柔らかい光で当たりを包み込むその優しさに、あれだけ流した涙がまた溢れ出した。

ずっとわかってた。

彼が付き合ってくれたのは単なる暇つぶしで、俺がただの玩具でしかない事ぐらい。
それでもいいと、どんな理由であれ彼のそばにいることを許されたのが嬉しくて。
だからその事実を忘れるように彼につきまとった。

寂しさに、つらいのに気づかないように。






「もう駄目なんだろうな」

きっと、もう終わりにしたほうがいいのかもしれない。
明日だってその次の日だって、なんでもないふりをして会いにいけば彼の隣を歩かせてくれる。

だけど。



「もう無理、もう無理だよ」

一度夢見た欲望は止まらない、気づかないふりなんてできやしない。

彼の許してくれた俺なんて、もう演じれない。










雲に隠されてゆく月に「さようなら」と呟いた。
君にもう揺らされない、とブランコをとめて。

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