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□獰猛な草食動物
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キリンは長い舌をうまく使って草を食べる。それこそ慣れた舌使いで。
じゃあ跡部君はキリンとほとんど同じだね。

その瞳で鋭く人の心を抉るから。



「人をキリンと一緒にするな」

軽くどつくと小さな悲鳴があがった。それに満足したのか、ふん、と跡部は小さく鼻を鳴らして千石の隣に座った。その際にソファーはぎしり、と鈍い悲鳴を上げたがそんなことは気にしない。高級なこのソファーがそんなことで壊れるわけもない。
跡部はゆっくりと千石の顎に手をかけて目をあわせた。彼が言う「鋭く人の心を抉る」瞳をもって。

「殴ることはないんじゃない」
「お前は痛い方がいいんじゃないのか」
「そんなマゾ気質は持ち合わせてないつもりですが」
「嘘言え。いつもベッドで「はいはいはい、マゾでいいです、もうそれ以上は絶対口にしないで!」
「もっと粘れねぇのかよ」
「あんな下発言しといてそんなむちゃ言わないで」

ううぅ、と小さく唸る千石の唇に自身の唇を重ねて堪能する。ふ、と漏れたその息に気分を良くして口内に舌を差し入れようとすると千石が軽く首を振った。なんだというのだろうか。ゆっくり唇を離すと少し睨んでその答えを催促した。

「やっぱり跡部君はキリンだよ」
「お前はそんなこと言うために拒みやがったのか」
「えー、なんのことだかわかんなーい」
「ちっ」

舌打ちをすると楽しそうに笑うものだから、またも軽くどつく。
キリンだと言われたり、キスを拒まれたりこっちは散々だと意味を込めてもう一度ふん、と鼻を鳴らすと悪かったって、と謝罪の言葉がかけられた。笑いを含んだままで軽いものではあるが。

「キリンってさ、上手に草を食べるじゃん」
「それがどうした」
「だから跡部君もキリンと同じなんだって」
「頭でも打ったか」

「何時もなんでも上手に抉るよねって話」
「・・・お前のそれは下品な話じゃないと言えるか」
「えぇ言えますとも!」

自信満々の千石の鼻にデコピンをくらわすと、いい加減にしてよ、と怒ったので笑ってやった。
それぐらい我慢しろ、とからかってみれば、跡部君の愛は痛すぎると嘘泣きをされた。

そんなことよりも、だ。

「で、俺様が何を抉るって」
「あ、食いつくんだ結局は」
「気になるだろ、普通」
「うーん、どうなんだろーね」
「いいから話せ」



「跡部君は瞳で心を抉って、舌で欲情を抉るねって話」
「やっぱり下品な話じゃないか」
「跡部君がそれをいうかなぁ」

これはなに、といって抓られたのは腰に回した跡部の腕で。跡部君がどうこう言えたもんじゃないじゃん、と千石は脹れた。その唇に。
軽くキスをして閉じられた唇を舌でこじ開ける。身じろぐ体を片手で押さえつけて逃げ回る舌を絡めては吸って。

しばらくして離れた唇は艶っぽい呼吸をしたもんだから。


「その欲情を抉ってみたんだが、どうする」

と悪戯に囁いた。



獰猛な草食動物

狩りつくされちゃえ

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