『樹』の囁き

□去りし空風や
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「…っう……!」


僅かな呻き声が漏れて、急いで口を塞ぐ。
今宵は皆休んでいるし、余計な心配は掛けられない。
自分達は立ち止まってなどいられないのだから。


「…傷が痛むのか、珀兎。」
「あぁ悪い、……っ。起こしたか…。」


一人の男が珀兎の側に座る。
珀兎は彼の名を呼ぶが、痛みで声にならない。


「……を呼ぶか。」
「いい。あいつも疲れたはずだ。負担を増やしたく…ない。」


彼女の治癒術は独特で、多少の負担がかかる。
…自分達のような足手まといを増やす必要はないのだ。


「十二神将、安倍晴明の傘下の式神か…。厄介な相手だ。」
「…っ、それに面倒なのは恍爛達と陰陽師だ。」
「…それなら心配いらない。」
「………?」


式神の男は声を潜めてくすりと笑う。
珀兎は同朋の言いたいことがわからず眉を寄せる。


「十二神将達に、恍爛達が何をしようとしてるか教えればいい。」
「…なる程、そうすれば神将達が恍爛達を討ってくれるわけか…。」
「神将は神の卷属。本気を出せば我ら式神さえ殺せる。」
「俺達も用心しないとな……っ!」
「もう休め、お前が一番重傷だ。恍爛達のことは、我らに任せろ。」
「…悪い。」


詫びる珀兎に、式神の男は苦笑する。


「何を詫びることがある。我らは同朋だ。」


今はもう、かつてのようには戻れないけれど。
 
 
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