『焔』の叫び

□水面の月に
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それは夜警に出る少し前の時刻。

もう少し夜が更けてから都に出ようと、昌浩は物の怪と一緒に安倍の邸の庭をウロウロしていた。
今日は夜空は晴れ渡り、月明かりが眩しい。


「今日は星も月も綺麗に見えるねぇ、もっくん。」
「そうだな。空じゃ風が強いんだろう。」
「もう秋だもんね。」
「夜は冷え込むぞ。ちゃんと着込んだか?」
「着てるよ。それに寒くても、もっくんがいるから平気。」


物の怪は温石代わりになる。首に巻けば、大抵の寒さにはへっちゃらだ。
物の怪がムスッと言う。

「俺を温石代わりにするなっての。」
「いいのいいの。それにしても、本当にきれいだなぁ。」
「話を逸らすな!」


けれども、美しすぎるあの満月は妖や悪霊を酔わせて狂わせる。
だから今日の夜警は、一段と気合いをいれなければ。


そして、ふとを満月を見た。

確かに美しい。
まん丸で白銀に輝いて、夜の太陽のようだ。

誰も手にしたことのない、美しい宝珠のようだ。
きっと、高天原の神様だけが手にできるのだろう。

…いや。

人間にだって、あの月に触れることはできる。


「…ねぇもっくん。」
「何だ?」
「あの月に触りたいんだけど、何とかできないかな?」
「………はあ?」


物の怪が、何とも言えない顔で昌浩を見上げる。「何言い出すだよこいつ。」とでも、言いたそうだ。
 
 
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