リレー小説

□本編
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「ん?」

教室前に来て違和感を感じる。
何かこう…制服に釘が刺さった感じ。
服の一部が何かに引っ張られているようだ。

「って、綾。何してるんだよ…。」

振り返ろうと顔を横に向けると、見知った顔が視界に入る。
すると違和感の正体がはっきりした。

「えへへ。おはよー、啓祐くん。」

服を引っ張っていたのはこの子の指だった。
この人懐っこい笑顔の持ち主は九条 綾。
腰まである長い黒髪と吊り下がった目尻で、ポワポワした雰囲気を纏っている。
細くは無いが、かといってぽっちゃりしている訳でもない平均的な体付きで160cmほどの身長を持つ。
去年も同じクラスの一員だった少女である。

「おはよ、どうかしたのか?。」

「特に何もないよ、啓祐くん見たら後ろから服を引っ張りたくなっちゃって。」

「毎度の事ながら、どう言う衝動だよそれ。」

綾は偶にこういう事をしてくる。
なかなか不思議な行動で、前に買い物に付き合った時はずっと服を摘まれていた事もある。
「どうした?」と聞いても、「なんとなく。」と返すので放せとは言えなかった。

「んふふー」

未だに服を摘まれているので動けない。
無理に外すと拗ねるので選択肢から除外する。
綾が拗ねると、期限を取り戻すのがとても大変なのだ。

「(早く教室に入りたい、しかし綾は放してくれない。さて、どうしたものか・・・。)」

動けないので状況整理でもしてみる。
どうしようもない状況なので、直ぐに教室に入る事を諦めようとすると――

「・・・あんた達、何やってるのよ。」

呆れたような口調で話しかけられる。
この声には聞き覚えがある。

「おはよう、成瀬。」

「芽衣ちゃんだ。おはよー。」

俺と綾は、教室の入り口から身を乗り出している少女に向かって挨拶をする。
少女はこちらに向かって歩いてきた。

「天崎、また綾に捕まってるのね。」

「まあね・・・気付くと摘まれてるんだ。」

「どうでもいいけど、早く教室に入った方がいいんじゃない?もう直ぐ始業式よ。」

成瀬の視線を目で追って廊下にある時計を見る。
8時10分か、記憶が正しければ始業式は8時25分から始まるはず。
あまり余裕はなさそうだ。

「あらら、もうこんな時間だね。啓祐君、カバン置いてこようよ。」

「そうするか。さんきゅ、成瀬。」

綾の束縛から開放された俺は成瀬の顔を見て表情を緩ませる。
自然に、フワッと。

「・・・っ!ほ、ほら!早くカバン置いてきてよ!」

頬を赤らめて始業式への準備を催促する成瀬。
何か間違えたか?怒らせる事は言ってない筈だけど。
中学でも似たような事を何回かしたが、あの時の女子達の反応は一体何だったのだろう。

「ま、いっか。」

考えるだけ無駄だと判断した俺は、カバンを教室に置いて3人で始業式に向かうのだった。
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