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□拍手再録・空銀
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アイコンタクト



「ねぇもう帰ろうヨ」

「待って、もうちょい」

「そんなの適当でイイアル」



今日は俺が日直。
日誌は全部埋めないとまた明日も日直。

こんな制度を考えた近藤は、担任からのメッセージの欄には印鑑しか押さない。



「もういいや、これで」

「帰ろ帰ろ」


神楽は椅子から立ち上がりカバンを持って、セーラー服の襟を揺らして扉まで走っていく。



「総悟ォ、何してるネ」

「うーん‥宿題のプリントが見当たらねぇ」

「もういいじゃん。明日朝早く来てやれば」

「じゃあ神楽も朝早く家出る?」

「バカか、一人で行けヨ」



机の中をごそごそ漁る俺を見て痺れを切らしたのか、神楽が歩いてこちらに向かってきた。



「私も探すの手伝うアル。何の教科のプリントネ」

「神楽」

「あ?‥んむっ」



学校で一回してみたかったんだ、と言ったら怒るだろうなぁ。

いきなりのキスで神楽は嫌がることも忘れていたようだった。



あ。

薄ら目を開けたとき、廊下からこちらをガン見していた銀さんと目が合った。



「総悟、誰か見てたらどうする‥」

「誰もいねぇよ」



銀さんはにやぁっと笑いかけてきたから、神楽に気付かれないよう俺もにっと歯を見せた。



「総悟?」

「そう急くなや」

「急いてないアル。もう離して」

「やだ」

「やだじゃない」

「やだやだ」

「子供かお前」



そんなことばかりして、俺は日誌の存在をすっかり忘れていた。

言うまでもなく、日誌を提出し忘れた俺は翌日も日直だった。




「ねぇもう帰ろうヨ」

「待って、もうちょい」





fin.090701
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