牧物わくアニ

□変化
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毎日毎日同じ事の繰り返し。
朝は机に向かって本をめくり、午後になればたまにやって来る街の人の占いをして、夜になれば星を見上げる。

今まで何十年と同じ事を繰り返して過ごしていた。
別にそれが嫌だった訳じゃない。
何の色もない日々に身を委ねる事を受け入れていた。

でも、最近俺の日常に変化が表れ始めた。


"彼女"が現れて俺の世界に色を付けた。




「初めまして!最近牧場を始めたアカリって言います。よろしくお願いします!」

そう言ってチョコレート色の髪に同色の大きな瞳が印象的な彼女は、輝かんばかりの笑顔で挨拶に来た。

それが始まり。

毎日、俺の家に来ては差し入れです。とコーヒーを持って来てくれるようになった。
雨の日や台風の日でさえ来た時は流石に驚いた。
けど、来てくれた事を嬉しく思った自分に、もっと驚いた。

そして、俺の日課に彼女とのお茶の時間が加わった。



今日もいつものように机に向かって本を読む。
時計ばかりが気になって本の内容なんか頭に入ってこない。


カチカチカチカチ……


やたらと時計の音ばかり耳に入る。

そろそろいつもの時間…。
今日彼女は来てくれないのだろうか……。
まだ牧場だって始めたばかりで忙しいのかもしれない。


それでも、来てくれると淡い希望を捨てきれず本と時計を交互に見る。



もうすぐお昼…。今日はダメかと諦めて本を閉じた時、控えめなノック音が響く。

コンコン…

「魔法使いさーん、居ますか?遅くなっちゃいましたけどお茶にしませんか?」

彼女の優しくて明るい声音に自然と顔が緩むのを感じた。

「居る…今、開ける…」

ドアを開けるといつもの太陽のような笑顔ではなく、困ったような笑顔で彼女は立っていた。

「遅くなってごめんなさい。コーヒーに合うクッキーを作っていたらこんな時間になっちゃって…でも自信作ですよ!」
「期待してる…」
「はい!」
「アカリ…」
「なんですか?」
「ありがとう…」
「……?…はい」

何に対しての感謝なのか分からないアカリは、首を傾げるも返事を返す。

キミとの出会いは、俺にとって大きな変化。良い変化。
その変化を、ありがとう。



FIN

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