企画

□今日と言う日を
1ページ/1ページ


「はぁ〜…」

今日これで何度めになるか分からないため息をこぼす。
と言うのも、退屈なのだ。
今このフラットにいるのは俺一人だけ。
リプレと子供たちは、旅券が当たって旅行中。
エドスも働き口の仲間の所へ外泊中。
レイドは騎士の遠征で留守だし、ガゼルはジンガとスウォンの三人で森へキャンプ。
他のみんなも各々の理由で出払っている。
家を完全に留守にする訳にはいかないと、キールが留守番を申し出たから俺も残ったって言うのに、当の本人まで朝から出掛けてしまっていないときてる。

留守番として残った以上、誰か一人は家にいなくちゃいけないから、外に釣りにも行けないじゃないか…。


「そうだ!」


ポケットから緑色のサモナイト石を取り出す。


「ハヤトが命じる、来たれテテ!」


ポンッと煙りを上げて姿を現したのは、メイトルパの住人テテ。
俺が良く呼び出すユニット召喚獣だ。


「テテ、悪いんだけど留守番、お願いしてもいいかな?」
『お任せくださいマスター!』


ピッと敬礼し、了解の声が頭の中に直接届く。


「何かあったらすぐに呼んでね」


そう言い残して釣り道具を片手にアルク川へと向かった。







ぽちゃん…と釣り糸を垂らし、獲物がかかるのをじっと待つ。

こんな事なら俺もキャンプに行けばよかったかな…。
別にキールに一緒に留守番しようって誘われたわけじゃなかったし、それにキールなら一人でだって退屈する事なく留守番できたはずだ。

そうだよキールが悪い!
せっかく二人っきりなのに、朝起きたら手紙だけ残されてるなんてさ…。

キールは二人っきりになれた事、嬉しく思わなかったのかな。
二人っきりは久しぶりだって、浮かれていたのは俺だけ?
こんなに女々しい自分が嫌になる。

一向にかかる気配のない水面をぼんやり眺めながら物思いに耽っていた。



『マスター!』
「テテ!?」


どれだけの時間物思いに耽っていたのだろう。
いつの間に来ていたのか、テテに呼ばれて気付いた時には、辺りがオレンジ色に染まって東の方はもう夜が迫っていた。


「ごめん。帰りが遅いから呼びに来てくれたんだね。ありがとう」


一日中留守番をさせてしまったテテを送還し、釣り道具を片付ける。
釣り針に仕掛けてあったエサも取られてしまって、結局一匹も釣れなかったな。


「ん?」


そうしてはたと気が付く。
留守番をお願いしていたテテが今さっきここにいたと言う事は、今家は空っぽって事じゃ…。


「まずい!」


自ら留守番を申し出ておきながら、家を空けて空き巣に遭いました、なんてシャレにならない!
背中を伝う冷たい汗に促されて、急いで家に向かう。

家が見えて来ると、明かりが灯っているようで窓から光が漏れていた。


「お帰り、遅かったね」
「キ、キール?」
「夕飯の準備は出来てるよ」
「ありがとう…」


相変わらずテテは仕事が早いね。
ハヤトを呼んで来てくれるかいって頼んだんだけど、テテには会ったかい?
それにしても、テテに留守番させて自分は遅くまで遊んでるなんて、ダメじゃないか。


そう 言われてちょっとムッとする。
ならキールはどうなのだ。
自分だって留守番をすっかり俺に押し付けて出掛けていたくせに。


「はいはい。どうせ俺は主様の言い付けを守れない、ダメダメな召喚獣ですよ」
「またそうやって自分を卑下するような物言いをして…。僕はキミをそんな風に見た覚えはないよ?」
「…もうこの話しはおしまい!ってキール?何か今夜の夕飯豪華じゃない?」


テーブルには所狭しと並べられた料理の数々。
これ、全部キールが作ったのか?


「流石に全部じゃないよ。トレイユのライに手伝ってもらったり、マグナやレックスさんにも協力してもらったんだ。そうそうジャズィーラにも行ったよ」
「ずいぶん遠い所に…もしかして!朝から出掛けてたのはこのため?」
「そうだよ。だって今日は僕とハヤトが出会った日だから。その記念にと思ってね」


驚いた…。
俺だってすっかり忘れていた大切な日を、キールが覚えていたなんて…。
そのために朝から遠い所まで飛び回って、準備してくれて。


「せっかくの二人っきりの時間を減らしてしまったけれどね」
「キール…」
「明日はみんなも帰って来るし、その後二人で出掛けようか?」


そう言って取り出したのは二枚の旅券。しかも手書き。


「ライからの招待状」
「え?」
「ヤードさんとレックスさん。ネスティとマグナや、ミルサート君とアルド君も来るって」
「わぁ!行く行く!!」


久しぶりにみんなと会えるし、キールと二人で旅行なんてこんなに嬉しい事はないんじゃないだろうか。


「決まりだね」


それからは二人で他愛のない話しをしながら食事をして、一緒にお風呂入って、一緒のベッドに入る。
昼間一緒にいられなかった分を取り戻すかのように、一晩中ずっと寄り添いあっていた。



FIN

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ