企画・過去拍手
□さくら
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ぽかぽかと暖かい日々が続く春。
この季節になると、町中がピンク色に染まり始める。
教会にそびえる桜が見頃を迎えて、連日町の人たちがお祭り騒ぎ。
いつもなら、そんな騒がしい日中に鬱陶しさを感じていたが今年はそれがない。
そう、俺はアカリと結婚して町にある自宅にはほとんど戻る事がないからだ。
町から少し離れた位置にあるアカリの牧場は、静かでとてもすごしやすい。庭には教会の桜に負けない程の桜が咲き誇り、そよぐ風に舞って散るその姿は一日中眺めていても飽きる事はなかった。
太陽に照らされた桜も好きだが、俺は月に照らされた桜の方が好きだったりする。
だから毎晩外に出ては星と一緒に桜を眺めるのが春の日課だ。
「今年も、きれいだ…」
「そうだね」
「アカリが…毎日、世話してる…だからだよ」
「ゲイルに誉められると嬉しいな」
頬をピンクに染めたアカリが本当に嬉しそうに微笑むから、俺は何だか照れ臭くなる。
「アカリ、また…一緒に…桜、見よう」
「うん!」
ひらりひらりと舞う桜がひとつ、強く吹いた風に吹かれて激しく舞い散った時、桜吹雪に紛れてアカリの唇に自らの唇を重ねた。
FIN