牧物わくアニ

□秘めたる願い
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砂浜から牧場に上るとアカリは変わらず玄関前に座って空を見上げていた。

「アカリ…家、入ってなかったの?」
「うん。だってゲイルの事待ってたかったから」
「寒くない…?」
「平気だよ」

アカリはいつもと変わらない笑顔と声音で接してくれる。

「アカリ、ごめん…さっき、声荒げて…」
「ううん…きっと私が気に障る事言っちゃったんだよね。私の方こそごめんね?」
「アカリのせいじゃない」

そう、アカリは全然悪くない。
悪いのは俺なんだ…。

「ねぇ…。何か悩み事ある?」
「…え?」
「最近ずっと様子がおかしかったし、夜もうなされてるみたいだし」

気付かれてた…。
上手く隠せてると思ってたし、アカリは気付いてないと思ってたのに。

「私でよかったら話し、聞くよ?」
「………」
「私だってゲイルの力になりたいよ!」

アカリのチョコレート色の大きな瞳からポロポロと涙が溢れて来て焦る。
アカリを泣かせてしまった…。
いや、アカリは俺の為に涙を流してくれてるんだ…。

「最近、夢を見る…」
「夢…?」

アカリの涙を拭って話し出す。

魔法使いや魔女の見る夢には意味がある。未来の事だったり、何かの知らせだったり…。
きっと俺が毎晩見る夢も未来を見せているんだと思う。
いつの日か来る未来に備えろ、と伝えてるんだと思う。


「周りの人や景色は、時が経てば変わっていく…。だけど、俺は変わらない…いつも一人、取り残される」
「ゲイル…」
「別にそれが嫌な訳じゃない…今までと変わらないから。…でも」
「でも…?」
「今回は今までと違う…。大切だと思える人、ずっと一緒にいたいと思える人ができた…」

アカリの事だよ。
とアカリを見つめる事で知らせる。顔を赤く染めた事から伝わったんだと分かる。

「いつものように…アカリも…俺の隣から、いなくなってしまう…」

俺が毎晩見ている夢は、いつも隣にいたアカリもいなくなって、また俺だけが残る夢。

覚悟はしていたつもりだった。
でも、こうやって突き付けられると簡単に崩れてしまった。

「俺は…初めて独りになるのが、怖いと思った…。でも…俺の願い、アカリと『いつまでも一緒に』って言うのは叶わない…」
「だから『絶対』なんて言ったんだ」
「そう…」

アカリにはアカリの、俺には俺の時間がある。
だから『ずっと』なんて無い。

「私もね、考えてた。私がおばあちゃんになって、この世からいなくなってもゲイルは生き続けるのか…って。自惚れかもしれないけど、寂しい思いをさせてしまうんじゃないか…って」
「自惚れじゃ、ない…」
「私だってゲイルを残すの辛いよ…」
「ありがとう」
「だから…」






「私を、ゲイルと同じだけの時間を生きられるようにしてほしいの!」



頭上を流れる星に願ったのか、俺にそうしてくれと頼んだのか…アカリはそう叫んだ。



FIN
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